作品名 |
作者名 |
カップリング |
「その男の名は豊川悦司」 |
弱味☆氏 |
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「シンジさんってSとMどっち?」
「チカはSとMどっち?」
「乙女の会話からはみ出てるぞ」
いまいち2人の会話の内容がつかめなくても、反射的にツッコんでしまう
自分が悲しい。私の体質なのだろうか。
夏休みに、チカはエーコの親戚の家で、エーコの従兄の城島シンジという
人に一目惚れしてきたらしい。シンジという名前はエーコの話にはたびたび
登場していたので、私も名前だけは知っていた。エーコがエロ本の調達先
としていつも口にするからだ。中学生は本屋でエロ本を買えないから、
たまに落ちているのを拾ってくるか、パクってくるしかないのだという
(それならエロ本収集そのものをやめろ、とは今さら私もツッコまない)。
エーコは一人っ子だから、自然に親戚の彼がターゲットになってしまったのだろう。
女の私でも、シンジさんには同情する。
でも、エロ本の中にアナルものが多いことからして、結局はろくな
男じゃないだろう、と勝手に決め付けていたのだが、チカが撮ってきた写真を
見ると、どうしてどうして、これがなかなかカッコいい(まあ、SKIPには及ばないが)。
こんな人でもアナル好きなんだ、という気がするほどだ。勝手な決め付けだけど。
一緒に写っているカナミさんという従姉もかわいい。高校一年ということだが、
こんなにかわいければさぞかしモテるだろう
(エーコにそう言ったら、「え?ププッ、プクククク……」と吹き出したので、
今でもなんだか気になる)。
ともかく、チカはシンジさんに恋をして帰ってきた。何事にものめりこみ易いチカは、
今はもうこれしかない!という感じで、エーコにシンジさんのことを質問しまくっている。
少しでも多く情報を得ようと必死だ(まあ、エーコのことだから、話にかなり尾ひれが
ついてしまっているに違いないが)。
私はその中に入っていけない。シンジさんがどういう人かよくわからないし、チカがなぜ
シンジさんを好きなのかもわからない。もっとも、チカ自身にもよくわかっていないのだろうけど。
とりあえず3人でいても、私は2人の話をただ黙って聞いているだけ、ということが多くなったのは確かだ。
この3人で行動し始めたときとは、明らかに違う関係になりつつある。私とチカは小学校からの付き合いだし、
チカはエーコとよりも私との思い出の方が多いはずだった。
にもかかわらず、チカは今、思い出の少ない方の友達と、私のことなんか頭にない様子で、ひたすら私の
知らない世界のことを話している。
嫉妬?
そんな言葉が浮かぶ。まさか。シンジさんの家にいたという、金髪で巨乳のお姉さんのことを話題にする時の、
チカのあの悔しそうな表情を、今の私もしているというのだろうか。
チャイムが鳴って、席に付く時間になっても、チカはまだエーコにくっついている。
エーコもいい加減飽きてきたらしく、適当に返事をしているのがはたから見ると
まるわかりだが、チカはそのつど、メモなどとっていて、その熱心さには涙さえ出そうになる。
先生が来て授業が始まると、今度は取ったメモを教科書のあいだに隠し、時々チラチラと見ている。
今日得た新たなシンジさん情報を頭の中に叩き込んでいるらしい。
それが落ち着くと、今度はノートをちぎり、何か書いたミニ手紙を、クラスメイトを通じて
エーコの席まで届けようとしている。お前の目標はシンジさんかエーコかどっちなんだとツッコみたくなるぐらい、
チカはエーコにべったりだ。
エーコ・・・か。
今年の3月、有名私立中学の受験を全て落とした私は、この市立中学に入学した。
お母さんは怒り狂い、ちょっとは申し訳ない気もしたが、
もうお母さんのペットとして勉強だけする生活はうんざりだったし、
なによりよく知った友達と一緒に進学するのが嬉しかった。
仲良しのチカと同じクラスになっているのを喜び、慣れない制服で入学式を済ませた後、
教室でお互い自己紹介をした。
「○×小学校から来ました、関川エーコです。趣味はエロ本集めです。
皆さんも処理に困ったエロ本があったら、私のところへ持ってきてください」
笑顔でそう言い放ったのは、ショートヘアを若干伸ばしたような髪形の、
少々ワイルドな感じの同級生だった。よく見れば、目のくりっとした、
なかなか愛嬌のある女の子だが、なにしろ発言の内容が尋常でない。
気まずさにおおい尽くされた教室を、どう処理しようかまごつく担任(33歳男・独身)に、
「あれ?早速先生が持ってきてくれるんですか?」
とぶちかまし、教室内の爆笑を呼び起こしたのは記憶に新しい。
後で職員室に呼ばれていたが、帰ってきても、本人はケロリとしたものだった。
先生に注意されて、そんな顔をしていられる子を見たのは初めてだった。
713 名前:弱味☆[sage] 投稿日:2005/11/19(土) 03:39:58 ID:aegfbg4g -->
違う小学校とはいっても、私とエーコの家はさほど離れていなかった。
近所でエーコの姿を見かけたときは正直「うわわわわわ」と思ったけれど、
挨拶を交わしてみると意外にいい奴で、チカと3人で誘い合って学校に行くことになるまでに、
1週間はかからなかった。
最初はチカよりも私のほうが、エーコと一緒にいることが多かったと思う。
チカがわりと人見知りする性格だということもあり、
チカとエーコの間に私が入って調和を図る、というパターンだった。
そのうちに、エーコが入学式の日よりももっと卑猥なことを口にするようになり、
それを私があわてて制し、チカが間で振り回されるという、「ボケ」「ツッコミ」「とまどい」の図式
(私は認めたくないが、絶妙に調和がとれている、らしい)が出来上がったというわけだ。
だいたいが、一日のうちにエーコが発する言葉の3分の2ぐらいは「卑猥」意外に形容できないようなことだ。
いくら保健体育の授業中とはいえ、「獣姦プレイで犬の精子とかを受精するとどーなるんですか?」
とわざわざ手を挙げてまで聞く女子中学生は日本中でエーコだけだろうし、募金の赤い羽根をなくして
「ま、いーや、今日はパンツに羽根つけてるから」とわけのわからない納得の仕方をするのも、
やはりエーコをおいて他にいないだろう。
にもかかわらず、エーコはなぜかクラスの人気者である。エーコがいるといないでは
イベントの盛り上がりは大違いだし(なぜだ)、クラスでも成績はつねに10位以内(信じられん)、
男子の間でもひそかに人気上昇中(ありえない!)である。特に何かしているわけでもないのに。
もしかしたらエーコには、何もしなくても周りに人が集まってくる、スター性みたいなものが
備わっているのかもしれない。現に私もチカも、なんだかんだ言いながらエーコと距離を置く、なんてことはしてないし。
そう考えると、チカがエーコべったりなのも、もちろん第一目的はシンジさんなのだろうけど、エーコの持つ魅力に、
知らないうちにひきつけられているからかもしれなかった。
だが、そんな理屈をつけたところで、私の面白くない気持ちがどうにかなるというわけではない。
そういう魅力を持つエーコに劣等感を抱くだけだ。どうせ私と話してるよりエーコと話してる方が面白いんでしょ、と一瞬だが思う。
やっぱり嫉妬なのかもしれない。いや、百合とか、そういうアレではないけど、チカをエーコに取られた気になっているのは事実かもしれない。
幼い感情だと自分でも思うが、それは知らないうちに抱いていた、劣等感の裏返しというだけのことなのかもしれないし……。
「あー、もーっ!」
声に出てしまっていたらしい。クラス中の「イタい人」を見る目つきと、理科教師(52歳男・既婚・子供2人)のにやりとした視線が私の顔に突き刺さる。
「授業中にいきなり叫びだすとは、福浦はなかなかエネルギーがあり余っとるようだな。そのエネルギーをお前の成績アップにつなげる勉強法があるんだが、
放課後にでもそれを体得する気はないか?」
この間の中間テストの成績を思い出し、私は一瞬白目をむいた。
つ……疲れた……
半死人のような体を引きずって、私はなんとか更衣室までたどり着いた。
放課後4時までみっちり補習をされ、それから部活に出ると、遅刻!ということで、
テニス部の後片付けは私一人でやらされることになった。
「補習なんですけど……」といっても、「言い訳は聞かん!」と相手にしてもらえなかった。
どっちにしろ私の責任なので、それ以上文句を言うわけにもいかない。後片付けは、ふだん1年生全員の仕事だ。
1時間とはいえ厳しい練習の後、それを一人でやらされるのは、拷問に近いものがあった。
エーコが手伝おうとしてくれたけれど、「福浦一人でやらせな」と言われて、そのまま帰ってしまった。
部室の長いすの上に腰を下ろして、しばらく思考が止まる。
勉強も部活も友達関係も、全てが中途半端な私。
勉強は中学に入ってから、成績が下がる一方。
部活だっていつまで続けられるかわからない。
友達関係は……。
床を見つめていると涙が出そうだったので、ぼんやり窓から外に目を写すと、
ちょうど野球部の練習も終わったのか、伊東が通りかかった。ぼんやりしているのは私と一緒だが、
私と違って、伊東はいつもぼんやりしているのだ。
反射的に、ドアを開けた。
「おーい!伊東!」
「ん?」
意識の定まらぬ顔で、私のほうを見た。
「あ、えーと……いつも関川と一緒にいる……」
まさか、クラスメイトの名前覚えてないのかよ?
「福浦だよ!福浦マホ!……今帰り?」
「あ…うん」
「ヒマだったら、ちょっと話しして行きなよ」
考えてもいない台詞が、驚くほど自然に出た。
「でも……女子更衣室だろ?」
「いいよ、そんなこと……私一人だから。もうみんな帰ったし」
「そうか」
それ以上ためらう様子もなく、伊東は音も立てないで部屋の中に入ってきた。
それからしばらく、私たちは取りとめのない雑談をした。伊東は本当に私の名前を知らなくて、
今日の理科の時間のことも覚えていないらしい。伊東いわく「あん時はさー、消しゴムのカスを集めて固めたら、
もう一回消しゴムとして使えるか研究中だったんだよな」ということらしい。
こういう奴だ。そこそこカッコいいし成績もいい(なぜだ)のに、どこか抜けたところがある。
将来大物になるかただの世間知らずで終わるか、二つに一つだろう。
そんな奴をなぜ更衣室に呼び込んで話をしたくなったのか、私自身よくわからない。
別に伊東にホレてなんかいないけど、やっぱり私も生身の娘、辛いときには男にすがってみたい、ということなのだろうか。
しばらくそのまま雑談をして、時間を見て返す予定だったのだが、伊東がこんなことを言い出した。
「あのさ……おまえ、関川と仲いいのか?」
「エーコと?仲……いいけど、なんでそんなこと聞くの?」
『いいけど』を言うまでにだいぶ間があったのは考えないことにしよう。
「いや、ただなんとなく、いつも一緒にいるからさ」
ガラにもなく照れくさそうに、伊東はそっぽを向いた。
カッ、と頭に血が上った。こいつはエーコのことが好きなのだ。私がエーコと一緒にいるのを何度も見ておきながら知らないということは、こいつの中では、私=エーコのおまけ、という位置づけでしかないのだ。
何だよ。お前もエーコかよ。みんなエーコなのかよ。私を見る奴はいないのかよ。
目の前が血の色になった。何も考えられなくなった。
向かい合って座っていた伊東の、怪訝な顔の唇に私の唇を押し付けた。
「ん?んぅ……」
伊東はパニックに陥ったみたいだった。自分でもなぜこんなことをしているのかわからない。頭の後ろがやけに熱い。
キスの仕方なんて知らない。ドラマでキスシーンを見たことがあるだけだ。でも、ただ強く、離れないように
唇を押し付けているだけなのに、体から力が抜けていく。呼吸の限界が来て唇を離すと、二人の唇の間に、
どちらのものとも付かない唾液が、糸を引いて切れた。
伊東はいとも簡単に、理性のリミッターを解除したらしい。さっきまでとは違い、眼が血走ってギラギラしている。
私の両腕をがっちり抱きしめた。もう一度、伊東の方から唇を押し付けてくる。抗う術はなく、私は伊東の唇を受け入れた。
そのまま私の唇を割って、舌を差し入れてくる。キスとは唇と唇を重ねあうものだと思っていたのに、舌を入れてくるなんて聞いていない。
狭い口腔内では私の舌に逃げ場はなかった。舌を動かせば、結局伊東の舌とからみあうことになる。伊東はますます興奮したのか、
私を抱く手に力がこもった。最近ちょっと大きくなってきたかな、と思っていた胸が押しつぶされる。なのに、私の両腕は突っ張りをきかせるどころか、
伊東の腕に指をからませ、身体のほうへ導くような動きさえ見せる。足も力が入らなくなった。
「あ……ダメ」
唇が自由になっても、私の口からはそんな言葉しか漏れない。並んだロッカーの前の長いすに、
私の身体は静かに押し倒された。間髪入れずに伊東の身体がのしかかってきて、首筋に熱い息が吹きかかる。
ゾクゾクッ、という鳥肌の立つ感覚が、不思議と快感だった。
やがてその手が汗まみれのユニフォームのポロシャツに伸びてきた。ブラのカップの下辺りを、やわやわと揉み込んでくる。くすぐったい。
恥ずかしさのあまり身をくねらせると、伊東は息を切らせながら、私のポロシャツを脱がせにかかる。バンザイをするような無理な
姿勢をとらねばならなかったが、もう身体は伊東のなすがままになっていた。お気に入りの白いブラも、カップの部分をむりやり押し上げられた。
恥ずかしさから乳房を隠そうとする私の手より、伊東の両腕のほうが早かった。
両腕がむりやり開かれ、薄紅色の乳首まで、伊東の前にあらわになった。そこに、伊東の舌が触れた。
「ひぁっ!!」
電流を流されたようなショックが、バストから全身に広がった。私のその反応を見て、
伊東は執拗に、乳房の両頂に舌を這わせはじめた。
「あぅぅっ!はふぅぅっ…あぁ……」
何度もその電流を与えられているうち、
(やば、漏らしちゃった……?)
小用が流れ出した時のような、股間のどこかが開くような感覚と、
じわっとした、熱い液体が流れ出る感触。
(え?でも……ちがう、おしっこじゃない……これ、もしかして、アレ?)
以前エーコがしたり顔で言っていた、「女の人は興奮するとパンツが濡れるんだよ」
という言葉が耳の奥で繰り返される。もっとずっと先のことだと思っていたのに、今、来るなんて。
どうしよう、どんどんあふれて来ちゃってる……。
私の腰が不自然にくねり、太ももがすりあわされているのに気づいたのか、伊東がスコートに手を伸ばしてくる。
「あっ、そこは、嫌っ」
拒絶の言葉も、伊東をより興奮させる結果にしかならなかったようだった。
ミニスカートと呼ぶには短い、風が吹くとすぐにめくれてしまう柔布が押し上げられ、アンダースコートに手がかかる。
「ほんとに、ダメっ」
再度の拒絶は、自分でも驚くほど弱弱しいものだった。それでも無意識のうちに腰を浮かせ、アンダースコートと
サポーターを脱がすのに協力してしまっている。
ごくり、と伊東が唾を飲み込む音が聞こえた。生まれて初めて、家族以外の異性に、下着をつけていない下半身をさらけ出している。
汗まみれで、漏らしてしまったかもしれないのに。
伊東はためらうことなく、陰毛の密集している辺りに顔をうずめる。死ぬほど恥ずかしい。汗をたっぷりかいて、まだ洗っていないのだ。
どんな異臭が漂っていることだろう。
しかし、そう思えば思うほど、どんどんあの恥ずかしい液体が股間からあふれ出す。まるで自分の身体ではないみたいだった。
「あふうううっ!」
先ほどとは比べ物にならないほどの電流が股間から広がってゆく。伊東が私の一番秘められた箇所に舌を這わせたのだ。
「あぅ、くぁっ、あああああぁぁっ」
伊東の舌がそこを往復するたび、ショック治療を受けたように、腰が跳ね上がる。あまりの快感に、脳がしびれそうだった。
もう一度ゴクリ、と唾を飲む音がして、今度はカチャカチャと、金属の触れあう音がする。
まさか、と思ってそちらを見ると、今まさに伊東がトランクスから、その、アレを取り出すところだった。
それだけはダメ!
と叫びたかったが、声がのどで止まってしまって、上手く声が出ない。
あっという間に私はまた押し倒され、唇をふさがれた。
「やさしくするから。大丈夫、大丈夫だから」
最後の方は自分に言い聞かせるみたいに言うと、私の口を手で押さえて、アレの位置を探り当てていた。
なに、と思う間もなく、
!!!!!!!
そこから避けてしまうのではないかという痛みが、身体中を駆け抜けた。私のあの部分に、
伊東のアレが侵入して来たのだ。
必死で手足をバタつかせても、伊東に身体を極められていて、身動きが取れない。
さらに、ズムッ、という感触がある。伊東が最奥まで侵入してきたのだ。痛みに気を失いそうになった。
そのまま5分ぐらい、そのままの姿勢でいただろうか。痛みも少し和らぎ、伊東の心臓の音と、
自分の心臓の音がシンクロして聞こえる。まだ、つながっているのだとわかる。
いちおう私が痛くならないように気を使ってくれたのだな、とわかる。
「動いていいよ」
そんな言葉が口から出る。もう、いいやという気になっていた。
伊東はもう、本能の男と化していて、子供のようにうれしそうな顔をした。そろそろとだが、腰を動かし始める。
まだ痛みが走るが、さっきほどではない。それに、かすかに下半身に、痛みとは異質な、甘い痺れのような感覚がある。
あれ…これ…気持ちいい……かも……
処女を失ってまだ数分なのに、もう快感めいたものを覚えている自分の身体に戸惑う。
相手は特に好きな男でもないというのに。
「あ…んっ……」
甘い痺れが、お腹の中に起こる間隔がだんだん短くなっていく。伊東のアレが動いているのがわかる。
「うんっ…あふ…」
声が漏れていた。自然に伊東の腕にしがみつこうとする。伊東の腰の律動が小刻みになっていく。
あ、なかは……と思う間もなく、
「ううっ、ああっ!」
といううめき声がして、あの部分のいちばん奥に、熱いものが降りかかるのがわかった。
それと同時に、一瞬意識が翔んだ。精液を出された。膣内で射精されたのだ。赤ちゃんができちゃうかもしれない…。
最後に思ったのはそんなことだった。
「あ、その、俺、なんていったらいいか……」
伊東が手早く身支度を整えながら、おろおろした口調で弁解する。
「つ、ついふらふらっと来て……」
私を抱いていた逞しさは、もうどこにもなかった。基本的に、悪いことのできない奴なのだ。
それは私も良く知っている。
「安心して。誰にも言ったりしないから」
「えっと、あの…」
「誰にも言ったりしないから、早くここから出ていけ!」
そばにあったボールを投げつけた。
伊東を責める気はあまりない。更衣室に招き入れたのは自分だったし、キスしたのは自分の方だったし。
それに…初めてだけど、ちょっとだけ、よかったし。だからといって、2度とあんなことをさせるつもりもないけれど。
あの痛みは、エーコを妬んだ罰なのかもしれない。眼に見えるも努力しないで、ただ友達を羨ましがってた自分に、罰が下った。
そう考えるようにしよう。
あたりはもう夜だった。ふらふらとした足取りで身支度を済ませ、部室に鍵をかける。
お腹の痛みを抑えながら、街灯の付いているほうへ歩を進める。
「あ、マホだ」
「本当だー、おそーい」
エーコとチカだった。
「……あれ?なんでいるの?」
もう、とっくに帰ったと思ったのに。
「なんでって……一緒に帰らないの?」
エーコが不思議そうな顔で聞き返してくる。チカも首をかしげている。
「だって、なかなか来ないからさー…あれ?お腹押さえてどうしたの?
ははぁ、さては二日目だね?トイレにいたんでしょ?」
「そうそう、なかなか重くって……違うわー!」
お腹の痛みの原因はそんなことじゃないのに、やっぱり反射的にツッコんでしまっていた。
やっぱり体質みたいだ。
チカが安堵した表情を見せた。
「よかった、マホが来てくれて。私一人じゃツッコめないから、どうしようかと思ってたんだ」
「……おい、お前らにとって私の存在って何なんだ?何だか言ってみろー!」
「マ……マホ…苦しい…」
いつかは、別れる。だから今、一緒にいる。
そんなこと言ってたCMがあったっけ。なんか、車の……色の白い男の人が出てた。
あの人、なんて名前だっけ?どっかで見たことあるんだけど……。ま、いいか。
チカとエーコがロケットスタートからのスタートダッシュをきめるのが見えた。
5秒で追いつけそうだった。
(完)