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カップリング |
No Title |
弱味☆氏 |
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俺の部屋から、またしてもエロ本が消えた。クローゼットの底板を二重底にし(構想期間1ヶ月、工事期間1週間)、その隙間に隠しておいた
「月刊エロ大魔王」の最新号が消えていたのだ。他にも、「ペンギンクラゲ」の先月号、「快楽点」の今週号も消えている。
思春期の少年の部屋からエロ本を失敬するとは、なんとも許すべからざる怪盗であるが、その正体を推理するのはたやすいことだ。
何が面白いのかわからないが、とにかくエロ本から得た知識で次なるボケをかまそうと、日夜画策している=犯行の動機が十分・さらに
犯行時刻には現場付近にいてアリバイがない=犯行が可能だったという唯一の存在、そう、つまり怪盗の正体はーーーーー
「お兄ちゃん!」
「うわあ!」
いきなり部屋のドアが開いて、カナミが俺の部屋に侵入してきた。しまった。テキの方からの来襲とは想定外だ。
しかし、俺の狼狽する姿などは意に介さない様子で、30cmほども厚みのある本の束を、カナミはどすんと積み上げた。
「はい、これ今週分」
悪びれる様子などまったくない。いくらエロ本だって、決して高いとはいえない、俺の月の小遣いの1/3にもなるものを、
ずいぶん軽々しく扱ってくれるではないか。
「カナミ、お前なあ……」
そう来るのは先刻承知とばかり、もうひとつ文庫本の分厚い束が、俺の目の前にすいっと差し出された。
見るからにいかがわしい、黒と金と蛍光ピンクの装丁と、汚れることをかたくなに拒むような、真新しい紙とインクの
清々しい匂いのアンバランスさが、俺の視覚と嗅覚を快く刺激してくれる。
「ああっ!新刊が出たのか!」
漆黒の背表紙に燦然と輝く、『黒光 ミナカ』のペンネーム。デビュー後3ヶ月で、すでにカリスマの名を欲しいままにしている
官能小説界の新星の名だ。ちなみに『黒光』は『くろびかり』と読む。
その正体は……。
自慢じゃないが、俺は活字が大の苦手である。家で新聞を取ってはいるが
読んだことはないし、教科書に載ってる論説文は日本語じゃないと思っているし、
小説にいたっては「坊ちゃん」ですでに挫折した。
だがそんな俺でも18歳の今日まで何とか生きてこられたのであり、
小ざかしい文章の百や二百読めずともなんら恥じることは無いのだと俺は痛切に訴えたい。
特に中学生ぐらいの奴に訴えたい。その中でも特に21歳の美人家庭教師に授業を受けている中学生に訴えたい。
そんな俺を、少なくとも『黒光 ミナカ』の小説に限ってだけはとりあえず別、と思わせるに至ったほど、
カナミの盟友は小説家として優れていると俺は思う。
あっ、思わず言ってしまったが、彼女の本名は黒田マナカ、誰よりも思春期な、貞操帯をつけた女子高生である。
まあ別に隠す必要もなかったけれど。
「しかし、マナカちゃんもすごいペースだなあ。デビューして三ヶ月ぐらいなのに、もう新刊がこんなに出てるのか?」
「うん、私もよくわかんないけど、一週間に一冊ぐらいの割合で書いてるんだって」
俺に編集の知識はないが、こんな五百数ページもあるものを一週間で書くとすると、
単純計算でも一日七十ページぐらいだ。俺だったら三秒で投げ出しているだろう。
「しかしそんなんじゃ、学校に来るヒマもないんじゃないか?」
「毎日来てるよ?こないだ新しい貞操帯買ったからって、見せてもらったし。……よければお兄ちゃんにもつけてあげるけど?」
「『よければ』の意味がわからんが、とりあえず遠慮させてくれ。つーか何で持ってる………出さなくていい!」
「同じものがもう一つあるからって、貸してもらったの。レンタル料はカラダで支払いました♪」
「な、ななななな?お前、まさかマナカちゃんと……」
「やだなあ、お兄ちゃんの考えてるようなことはないよ。百合キング・マリリストさんならいざ知らず、
弱味☆にそんな才能あるわけないじゃない」
「それに関しては心配しとらんが……」
「本当に大丈夫だって、カラダっていうのはお兄ちゃんのだから」
「そうか、それなら安心……いやいやいや!」
これをいつものカナミのエロボケと考えていたのは、俺の致命的うかつだった。
そう、結果的にはカナミの言うことが全てを物語っていた。俺は間違っていた。
これからはカナミ、いやカナミ様に使える忠実な奴隷として・・・・・・・・・・・・・・・
って人の思考に勝手に入りこんで来るなー!
「・・・・・・ダメ?」