作品名 作者名 カップリング
「Love Junkie」 クロム氏 -

「シンジ君が入院!?」
日曜日。突然かかってきた一本の電話が、自宅でくつろいでいた私を驚かせた。
『そうなんですよ。家の階段から落ちちゃって…』
「階段からって…怪我の具合は?大丈夫なの?」
『ええ、それは大丈夫です。怪我って言っても、いくつか打撲があるだけで。
検査とかで入院するけど、それも一週間くらいで退院できるそうです』
電話の相手――カナミちゃんの声には、呆れたような響きが含まれていた。
『まったく、うちのお兄ちゃんときたら…やっぱりどこか抜けてるんですよね』
うん、それに関しては私も同感だ。
『階段でコケたなんて…恥ずかしくて人に言えませんよ』
「ハハ…でもよかったじゃない、大したことなくて。骨折なんてしてたら大変でしょ?」
『ええ、まあそれはそうなんですけどね。先輩、お時間あったら顔見に行ってやって下さい』
「うん、そうさせてもらう」
『ついでに思いっきりからかってやって下さいね』
「フフ、言われなくてもそのつもり。任せといて」
で、電話を切った私はさっそくシンジ君が入院している病院に向かった。
道中、どうやってからかってやろうか、なんて甘悪い考えを浮かべながら。


コンコン…
「失礼しま〜す」
病室のドアをノックし、ゆっくりと開ける。
病室には二つのベッドが置かれていて、シンジ君は左側のベッドに寝ていた。
右のベッドは今は使われていないらしく、布団がない。二人部屋だけど、今はシンジ君一人だけみたいだ。
「おっ、ケイ!来てくれたのか」
首や腕に湿布を貼ってはいるけど、シンジ君は思いの外元気そうだった。
「階段から落ちたんだって?災難だったね」
私は開いてるベッドに腰を下ろしながら、シンジ君に言葉を投げた。
「ああ、まったくだよ。気が付いたら病院のベッドの上だもんな」
「あ、寝たままでいいよ。それより大丈夫なの?」
「ああ。怪我も大したことないし、身体中あっちこっち痛いけど、すぐよくなるってさ」
その辺のことはカナミちゃんに確認済みだけど、やっぱり本人の口から聞くと安心する。
「何か変な後遺症とかは?頭悪くなったりとかしてない?」
「頭が悪いのはもとからだよ…」
「自分の名前言える?私の名前は?」
「言えるに決まってるだろ!別に記憶喪失になったわけじゃないんだから…」
「そう?じゃあ今日が私の誕生日ってこと、覚えてる?」
「えっ!?そ、そうだっけ?」
「フフ、冗談よ」
「冗談って…あのなぁ…オレ苛めて楽しいのかよ?」
「うん、すっごく楽しい」
私の言葉に、ガックリと肩を落とすシンジ君。
あまり苛めるのも可哀相なので、この辺で一旦やめておこう。
「まあそれは冗談にしても…あんまり人に心配かけないでね。これでも心配したんだよ」
「ああ、悪かったよ。以後気をつけます」
「うん、よろしい」
ちょっと芝居掛かった口調で頷き、立ち上がってシンジ君の側に近寄った。
「うわ〜、ここ痣になってる。イタそ〜」
首筋の辺りに大きな青痣ができている。私はそれを指でつついてみた。
「痛ッ!!痛いって!!」
途端にシンジ君が悲鳴を上げる。
「なにすんだよ…」
「ごめんね、面白そうだったから」
ペロッと舌を出して形だけ謝ってみた。悪いと思っていないのが丸分かりだけど。
「面白そうって…オレ一応怪我人だぞ?もうちょっと優しくしてくれよ」
情けない表情を浮かべるシンジ君。それを見て、ふと閃いた。それなら優しくしてみましょう。



シンジ君の頭に手を置き、ナデナデしてみる。
「シンくん、可哀相だったねー。早くよくなってねー」
子供をあやすような口調で言う。もちろんからかってるんだけど。
「なんだよシンくんって…」
「あれ?優しくしてみたんだけど。お気に召さなかった?」
「お気に召すわけないだろ…」
シンジ君は諦めたように溜息を吐き、ガックリとうなだれてしまった。
(うーん、楽しい♪)
シンくん、もといシンジ君には悪いけど、彼をからかうのはやっぱり楽しい。
最近では彼をどうからかえばどうリアクションが返ってくるかもわかってきた。
いじけてしまったシンジ君をニヤニヤと眺め、そのほっぺたを突っ突く。
シンジ君もそっぽを向いてるけど別に嫌がる様子はなく、私はしばらくその感触を楽しんだ。
そんなことをしていると、ノックの音が。ドアが開いて看護師さんが入ってきた。
「失礼します。城島さん、検査の準備ができたんで…」
途中で私に気付き、言葉を止める。
「あら?こちらは…ひょっとして、彼女さん?」
「え、ええ、まあ…」
照れた様子で吃りながら返事をするシンジ君。もっとちゃんと説明してくれればいいのに。
「いいわね、こんなステキな彼女がいて。でもごめんなさいね、検査を始めないといけないから…」
「あ、はい、わかりました。じゃあシンジ君、また明日来るから」
「おう、気をつけて帰れよ」
「…それ今のシンジ君が言っても全然説得力ないんだけど」
「うっ……」
固まってしまったシンジ君は放っておいて、私は看護師さんに挨拶した。
「じゃあお願いします。ついでに頭が悪いのも直してやって下さい」
「う〜ん、それは現代の医学では難しいかもしれないわね」
困ったような笑みを浮かべながらも、なかなかノリの良い看護師さん。
「いやいや、何言ってんですか。勘弁して下さいよ」
私たちのやりとりに、シンジ君も思わず苦笑を浮かべる。
私は彼に軽く手を振って、病室を後にした。


で、翌日月曜日。
学校が終わると、私はそのまま病院へ直行した。
「失礼しま〜す」
「おう、いらっしゃい」
シンジ君はベッドに腰掛けて雑誌を読んでいた。
「もう起き上がっても大丈夫なの?」
「ああ。一晩寝たらだいぶ痛みもとれたしな」
私はベッドではなく、隅に置かれたパイプ椅子を引っ張ってきて腰を下ろした。
「シンくん、ちゃんといい子にしてた?」
「だからシンくんはやめろって…」
「そう?私はこのフレーズ結構お気に入りなんだけど」
挨拶代わりにシンジ君をからかうと、私は鞄からお見舞いにと思って持ってきたリンゴを取り出した。
「リンゴ持ってきたんだ。食べるでしょ?」
「うん、悪いな」
「いえいえ」
持参した果物ナイフで皮を剥き、常備してある紙皿の上に並べる。
「シンジ君、フォークある?」
「ん?ああ、その辺にカナミが持ってきてくれたやつが…」
「あ、あったあった」
フォークを手に取り、リンゴを突き刺す。そしてそれを彼の前に差し出した。



「はい、あーん」
まあお決まりと言えばお決まり。これがやりたくてリンゴを持ってきたんだし。
「いや…自分で食べるから…」
この反応も予想済み。当然引き下がるつもりはない。
「あーん」
「いや、だから…」
「あーん」
「……」
再三に渡る攻撃で、ついにシンジ君が折れた。わかってたことだけど、シンジ君は押しに弱い。
溜息を吐き、私の差し出したリンゴに齧り付こうと口を大きく開ける。
その時だった。
「おーいシンジ!見舞いに来てやったぞ」
突然ドアが大きく開かれ、新井君が部屋に入ってきた。その後ろにナツミの姿も見える。
そして、私たち四人はそれぞれ固まった。
私はフォークを差し出したまま。シンジ君は口を大きく開けたまま。
そして、新井君とナツミはそんな私たちを見て目を丸くしたまま。
動くものはなく、奇妙な沈黙が部屋を支配する。そして…
パタン……
ドアが閉められた。少し間を置いて、控え目なノックの音。
「どうぞ…」
シンジ君が答える。
再びドアが開いて、二人が入ってきた。どちらもニヤニヤと笑っている。
「なんだかこの部屋暑いわねぇ。暖房効き過ぎなんじゃない、ケイ?」
「随分楽しそうなことやってるじゃないか。リンゴ旨いか、シンジ?」
開口一番、二人ががわざとらしく言う。
「いや、あのね、これはその…」
しどろもどろになって弁解を試みるが、上手い言い訳が浮かんでこない。やっぱりあんなところを見られちゃね…。
「いいからいいから。わかってるって」
「うぅぅ……」
もはやグウの音も出ない。
「羨ましいなぁ、ケイ。彼氏とアツアツで。バカップルの見本市、って感じ?」
「あうぅ……」
さっきまでシンジ君をからかっていた私が、今はナツミにからかわれている。
シンジ君の方を見ると、彼もまた、新井君にからかわれているようだ。
「あ〜あ、私も一緒にあんなことできる彼氏が欲しいなぁ」
「なんだ今岡、オレに言ってくれればいつでも相手に…グハッ!」
口を開いた新井君が、ナツミに殴られて悶絶する。まあいつものことなので誰も気にしない。
「ま、仲が良いのは結構なことよ。私も嬉しいわ。なんたって私は、二人の恋のキューピッドだもんね」
「あっ、オレもオレも…グフッ!!」
新井君が再び床に崩れ落ちた。っていうか、さっきのダメージからもう立ち直ったのだろうか?
キューピッド。確かに私たちが付き合うようになったのはナツミと新井君のお陰と言えなくはな。
言えなくはないんだけど…
「あれはキューピッドって言うのか?」
シンジ君がボソッと呟く。だけど、ナツミにはそれが聞こえたみたいだ。
「城島君、なにかおっしゃった?」
すっごい笑顔。その下で固く握られたこぶし…コワッ。
「な、何もおっしゃってません…」
シンジ君も身を震わせながら答える。まあ足下に転がる新井君を見れば、誰もナツミには逆らえないだろう。
「まあいいわ。お見舞いのつもりで来たんだけど、お邪魔だったみたいね。
お邪魔虫は退散するから、二人で続きを楽しんで。ほらカズヤ、帰るわよ」
「おう。じゃあ今岡、今から二人でホテルにでも…ゲフッ!!!」
ナツミは床に転がる新井君を引き摺って出ていってしまった。
ドアが閉められ、部屋には私とシンジ君が取り残された。



「…何しに来たんだ、アイツ等?」
「…さあ?お見舞いって言ってた気もするけど」
二人並んで閉められたドアを呆然と眺める。そういえば、私はフォークを握ったままだった。
視線はそのまま、無言でフォークだけをシンジ君の前に差し出す。
シンジ君も視線はそのまま、無言でリンゴに齧り付く。
私もフォークの先に残った半端なかけらを自分の口に放り込んだ。
しばらくの間、部屋にリンゴを咀嚼する間抜けな音だけが響く。
そして、その音もあらかたやんだ頃。その光景のあまりの間抜けさに、私たちは同時に吹き出した。
「ハハハ、なにやってんだよ、ケイ」
「そう言うシンジ君だって」
何故か笑いが止まらない。無意味に戯れ合い、笑い合った。
どれくらいそうしていただろう。私の目が、シンジ君の唇で止まった。
「ねえ、シンジ君…キスしようか」
「な、なんだよ急に…」
私の提案にシンジ君がうろたえる。
「もうっ、照れることないでしょ。バカップルは周知の事実になっちゃったんだから」
「いや、バカップルって…」
何か言おうとするシンジ君を無視して、ベッドに腰掛け目を瞑る。ついでに顎を軽く持ち上げた。
「やれやれ…」
そのままの格好で待っていると、シンジ君の手が私の肩にのせられた。
気配でシンジ君の顔が近付いてくるのがわかる。
その時だった。
「おーい、お兄ちゃん!アキちゃんもお見舞いに来てく…れた…よ…」
ドアが開き、カナミちゃんが部屋に飛び込んできた。その後ろには、ウチの制服を着た女の子の姿も。
そして、私たちはそれぞれ固まった。
私は顎をあげてシンジ君を待つ格好で。シンジ君は私の肩に手を置いた格好で。
そしてカナミちゃんたちは…もういいやこのパターン…。
とにかく。再びドアは閉められ、先程同様控え目なノック。
「どうぞ…」
カナミちゃんがドアから顔だけを覗かせる。意味ありげな笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん、本当にお邪魔していいの?いいところだったんじゃない?」
「……いいからさっさと入ってこい」
「じゃ、失礼しま〜す」
カナミちゃんともう一人、金髪の女の子が部屋に入ってきた。
(この娘は確か…矢野さん、だっけ?)



何度かシンジ君の家で顔を合わせたことがある。シンジ君とも仲が良いらしい。
「そう言えばさっきそこで今岡先輩と新井先輩に会ったよ」
「ああ、アイツ等もお見舞いに来てくれたんだよ」
「今岡先輩がここに来たら面白いものが見れるかもって言ってたけど、このことだったんだね」
「なっ……」
「なんなら続きをしてくれてもいいよ?私たちは邪魔にならないように見学してるから」
「で、できるわけねーだろっ!」
シンジ・カナミの兄妹漫才が繰り広げられている。その脇で、矢野さんが私に話しかけてきた。
「あの…すみませんでした。なんかお邪魔しちゃったみたいで…」
「は、はは、気にしないで…」
キスしようとしているのを見られた。もう笑うしかない。顔は引きつってるけど。
これで私たちも明日から正真正銘のバカップルだ。
「でも羨ましいですね、彼氏と仲良くできて」
「うん、まあね。矢野さんは彼氏いないの?」
「あ、アキでいいです。残念ながらそういった人はいませんね」
「そうなんだ…あ、私もケイでいいからね。でもアキちゃんかわいいしスタイルもいいから、モテそうなのに」
「ハハ、ありがとうございます。でもコレっていう出会いがないんですよ」
「へぇー、なんでだろうね?」
「まあ…原因は十中八九、アレとつるんでるからでしょうね」
そう言ってアキちゃんが指差した先にカナミちゃん。
「そうだお兄ちゃん、マナカちゃんから預かったものがあるんだ」
「だいたい予想がつくんだが…何を預かったんだ?」
「ちょっと待ってね…ほらコレ、マナカちゃんセレクトのナースもの官能小説十冊セット!」
「いらん。持って帰れ」
「ええっ!なんで!?お兄ちゃんこういうの大好物でしょ!?」
「そういう問題じゃない!」
こういうのが大好物ってところは否定しないんだろうか?
「しょうがないなぁ…じゃあこれはケイ先輩に…」
「やらんでいい!!」
「え〜、先輩に勉強してもらえばお兄ちゃんとのプレイの幅も増えるのに。もうこうなったらアキちゃんに…」
「私はいらんからな」
カナミちゃんがボケ切る前に的確なツッコミを入れ、アキちゃんがこちらを振り向く。
「アレですから。私も同類に見られちゃうんですよね…」
「は、ははは…」
すごい世界だ。凡人の私では到底生き残れそうにない。
シンジ君にしてもアキちゃんにしても、私とはかけ離れた次元にいるようだ。
その後も室内で繰り広げられるボケとツッコミの絶妙な応酬を、私はただ見ているしかなかった。


結局、カナミちゃんたちは二十分ほどで帰っていった。
「疲れた……」
部屋が再び静かになると、シンジ君はベッドに倒れ込み、電池が切れたように動かなくなってしまった。
「お疲れ様……」
初めてツッコミ疲れというのを目の当たりにした私には、それくらいしか言葉が思い浮かばない。
「まったくカナミのやつ……あれじゃ見舞いに来たのか邪魔しに来たのかわかんねーよな」
「大変なんだね、シンジ君も」
「まったくだ。でも、もっと大変なのは矢野ちゃんだろうな」
「……確かに」



シンジ君とアキちゃんは、カナミちゃんたちのグループにおけるツッコミのポジションにいるらしい。
その二人が、カナミちゃん一人にこれ程消耗させられたのだ。
まして、カナミちゃんの周りには彼女に引けを取らないツワモノがまだまだいるのだという。
シンジ君のいない今、ツッコミ役であるアキちゃんの苦労のほどは私には想像もつかない。
「矢野ちゃん…ツッコミ疲れで倒れなきゃいいけどな」
「ホントにねぇ……」
私は先程仲良くなったばかりの後輩のことを思い、そっと十字を切った。
それにしても。
「今日はなんだかバタバタしてたね」
「ん?ああ、そうだな。千客万来だったし、あんなとこも見られちまったしな…」
「明日学校に行くのが憂鬱だよ。ナツミたち、クラスで変なこと言い触らさなきゃいいんだけど」
「オレも…当分カナミにからかわれるんだろうな……」
「そんなに嫌?」
「ん…からかわれるのは疲れるけど、本当のことだし…嫌ってことはないさ。そう言うケイはどうなんだよ?」
「私も…嫌じゃない、かな」
顔を見合わせて笑う。ちょっと照れくさい。
「ねえ、シンジ君…さっきの続き、しよ?」
シンジ君が身体を起こし、ベッドの縁に腰掛ける。
「ケイ、こっち来いよ」
私もシンジ君の横に座った。肩同士が触れ合い、彼の指が私の頬を優しく撫でる。
そっと目を閉じたところに、彼の唇の感触が重ねられた。
触れ合った唇から彼の体温が伝わってくる。その感触が心地良い。
と、シンジ君とのキスに酔い痴れていたんだけど。
突然シンジ君が私の肩を掴み、私はそのままベッドに押し倒されてしまった。
「え…や、やだ、ちょっとシンジ君、何やってるの!?」
慌てて身体を起こそうとするが、押さえ付けられているため思う様に動けない。
「ごめん、ケイ…今のでその……我慢できなくなった。それに…溜ってたしさ」
「なっ……!」
キスで欲情しないでほしい。ああ、さっきまでのいい雰囲気は今いずこ?
「な、何考えてるの!?ダメだよ、今ゴム持ってな…じゃ、じゃなくてここ病院だし!」
「いや、ゴムならあるんだ…」
シンジ君がパジャマのポケットをゴソゴソやって、中のものを取り出してみせた。
「なんで持ってるのよ…」
「まあ…備えあれば憂いなしってことで…」
私は思わず泣きそうになった。耐えた自分を褒めてやりたい。
「だからって…また人が来たら困るでしょ!」
キスくらいならまだしも、エッチしてるところを見られたとなるとさすがにシャレにならない。
「あ…それもそうか」
気付いてなかったのだろうか?なにやら思案を始めるシンジ君。私はその隙に逃げ出そうとしたのだが。
「そうだ!ケイ、ちょっと来てくれ!」
シンジ君は飛び起きると、私の手を引き病室の外に出てしまった。



そのまま抵抗する間もなく連れて行かれたのは、同じ階の一番奥の部屋。
普段は物置として使われているらしく、中には様々な大きさの箱がいい加減に積まれている。
「ここなら滅多に人が来ないからさ」
そう言いながらドアにカギをかけるシンジ君。ひょっとしてもう逃げ場なし?
「まっ、待ってシンジ君!いくらなんでもこんな所で…」
ささやかな抵抗を試みるも、シンジ君には聞こえてないみたいだ。
某ゲームのゾンビみたいに、ジリジリと私に迫ってくる。
私はあっという間に壁際に追い詰められてしまった。
「ケイ……」
ゾンビ、じゃなくてシンくん、でもなくてシンジ君、が熱の籠った声で私の名前を呼ぶ。
「シ、シンジ君落ち着いて…やっぱりダメだよ…」
背中が壁に当たる。これ以上後ろに下がることはできない。
逃げ場を失った私を、シンジ君が抱き締める。不覚にもドキッとしてしまった。
(ダメ…いくらなんでもこんな所じゃ…)
これがホテルやお互いの自宅であれば、私はシンジ君をもっとすんなり受け入れていただろう。
だけど、ここは病院の一室である。人が滅多に来ないとは言っても、まったくないわけではないのだ。
「やめよう、シンジ君…退院したらその…いくらでも…」
あくまで抵抗を試みるのだが、そんな私の口を、シンジ君は強引にキスで塞いだ。
「んんっ…!」
キス自体はほんの二三秒だったが、私の身体の力を奪うにはそれで十分だった。
全身がフワフワと浮くような感覚を覚え、手足の先まで弛緩していく。
「かわいいよ、ケイ……愛してる」
アイシテル。耳元で囁かれ、最後の防衛線も軽く突破されてしまった。
シンジ君はずるい。そんなことを言われたら私が抵抗できなくなるのを知っているのだから。
もはや私に抵抗する気力は残されていなかった。
私の沈黙を肯定と受け取ったらしく、シンジ君が制服のリボンに手をかける。
「待って…全部脱ぐのは…」
さすかにここで全部脱ぐのはためらわれた。
「……わかった。でも下は脱がないと汚れるから…」
「う、うん…」
シンジ君がスカートとショーツをおろす。下だけを脱ぐのは、ある意味全部脱ぐより恥ずかしかった。
「シンジ君…恥ずかしいから……あんまり見ないで…」
セーターを引っ張り精一杯隠そうとするが、ほとんど効果はない。
「う〜ん、こういうのって結構そそられるよな。なんて言うか、スッゲーエロい」
「もうっ、イジワルしないでよぉ…」
「ん〜、どうしようかなぁ…最近はケイにからかわれっぱなしだからな」
「ば、ばかっ!」
シンジ君の言葉に顔が真っ赤になる。
「ははっ、冗談だって」
シンジ君が私を抱き寄せ、唇を塞ぐ。さっきより強く、さっきより濃厚に。
そして、シンジ君はキスをしたまま私の下腹部に手を伸ばしていった。
「んっ……」
直接触るのではなく、焦らすように周囲を撫で回し、その半端な感触が逆に私の快感を増長させた。
重ねた唇から洩れる吐息が、荒く不規則になっていく。



そんな私の反応を楽しむように、シンジ君は私の肌の上に指を這わせていった。
「ん…あぁ…っ」
痺れるような感覚に襲われ、自分の秘所が湿り気を帯びていくのがわかる。
そして、シンジ君は自分の指を私の秘所に滑り込ませた。
「あぁあッ!!」
シンジ君に触れられた途端に身体がのけ反り、思わず大きな声をあげてしまった。
「んっ…うぅ…あ…あンっ!」
必死に声を抑えようとするが、次々に込み上げてくる快感が私の口から嬌声を吐き出させる。
「クッ…ぁ…あ、んんッ…はぁ…」
「すごいな、ケイ…そんなに気持ちいい?」
「んっ……気持ち…い…いっ…」
「じゃあもっとよくしてやるよ」
「えっ…あ、あぁあっ!?」
シンジ君が指の動きを速める。
「んンッ…アっ、はっ……あぁ…ひあっ!」
クチュクチュと卑猥な音がたち、私を快楽の淵へと追いやっていく。
シンジ君にしがみつき、押し寄せる波を必死に耐えた。
「ケイ、あんまり大きな声出すと外に聞こえちまうぞ?」
「だ、だって…んっ…んあッ!」
そんなことを言いながらも、シンジ君は手を休めようとしない。
それどころか指の動きはいっそう激しさを増し、私を責め立てる。
「シン…ジくんッ…ダメ…も…イッちゃう…」
「我慢しないで…イッていいよ…」
「う…ん…あッ、あっ…イクッ…う…あああッ!!!」
全身がビクビクと痙攣する。シンジ君にしがみついていなければ立っているのも難しかった。
絶頂の余韻が身体中を駆け巡り、意識を朦朧とさせる。
「ケイ…見てみろよ」
シンジ君が自分の手を私の顔の前に突き出す。彼の手は私の愛液に塗れていた。
彼がわざとらしく指を動かすたびに、その液体は粘度を帯びた雫となって床に垂れていく。
雫は光を反射していやらしく輝き、私の目を犯していった。
「ケイも興奮してたんだな。いつもならここまではならないぞ」
「そんな…変なこと言わないでよ……」
羞恥心に耐え切れなくなり、思わず目を背ける。
シンジ君は私を壁に寄り掛からせ、その場にしゃがみ込んだ。
私の秘所から溢れる液体は腿の内側を伝い、足下へと流れ落ちていく。
シンジ君は私の脚に口を付けると、その跡に沿って舌を這わせ始めた。
「はぁ…ぁ…んっ……あ、あっ…」
意思とは無関係に、私の口から悦楽の声が飛び出す。
シンジ君は舌をゆっくりと動かし、止めどなく溢れる愛液を丹念に掬い上げていった。
シンジ君の舌は次第に上の方へと移動していき、ついに私の一番敏感な部分に到達した。
「ひあッ!?」
その瞬間身体が跳ね上がる。イッたばかりの身体に、その刺激は強過ぎた。
「シンジ君ッ…!ダメッ…ダメェッ!!」
しかし、シンジ君は私の声を無視して秘所を舐め続ける。
彼の舌が動くたび全身に電流が走るような感覚に襲われ、少しずつ理性が失われていく。
「ふぁあッ、あッ…も…やめ…んんッ……あッ、ああッ!!」



腰を両手でしっかりと掴まれ、逃げることすら許されない。
私にできるのは手で口を押え、声を殺して耐えることだけだった。
しかし、食いしばった歯の隙間から、口を塞ぐ指の間から、声にならない声が洩れる。
「やっ……だ…め…ヘ、ヘンになっちゃうっ…ぅ、くあァッ!」
身体中が小刻みに震え、呼吸は乱れる。視界はどんどん狭くなり、理性が失われていく。
その時、急にシンジ君が立ち上がった。ようやく解放された私は重心を失い、前方に倒れ込んだ。
「おっと…」
シンジ君が私を抱き留める。私は彼の腕の中で放心し、動けなくなってしまった。
「ケイ……もういいかな…?」
やや息を荒げたシンジ君が私に尋ねる。答えようとしたが、声が出せない。
やっとの思いで、首を一度だけ縦に振る。
シンジ君は一旦身を引くと手早くゴムを着け、私の額にキスをした。
「入れるよ…」
私の左脚を持ち上げて秘所に自身をあてがい、ゆっくりと腰を沈めていく。
「っ…ん、あぁッ……ぁぁああッ!!」
シンジ君の一部が私の内側を抉り、快感が私を狂わせる。
フワッと身が浮くような感覚と、どこまでも墜ちていくような感覚とが混ざり合い、頭の中で破裂する。
気が付くと私はシンジ君の唇に自分のそれを押しつけていた。
「うぅ…あッ、あッ…ああぁッ…、うぅん…」
シンジ君が私を貫くたびに、甘美な痺れが全身を駆け抜けていく。
「ひあっ!んっ…はッ、ああっ…ふあぁッ…!」
声を抑えることも忘れ、ただひたすらにシンジ君を求める。
ここが病院であるとか、誰かに聞かれるかもしれないとか、もうそんなことはどうでもいい。
彼と一つになる喜びに身を委ね、本能のままに快楽を貪った。
「シンジ君ッ…好き…大好きッ!!!」
「ケイ……ケイッ!!」
互いの名を呼び、そこに愛する人がいるのを確かめ合う。
互いの身体をしっかりと抱き締め、それでもたりないと言わんばかりに求め合う。
触れ合った部分から伝わってくる彼の温もりが、すごく心地よかった。
「ケイッ…オレ、もうっ…」
「うん……来て…来てェェッ!!!」
シンジ君が私の一番深いところに届く。
次の瞬間、私たちを取り巻く世界が爆発した。
「あ、あッ、あッ…ああああぁぁぁッ!!!」
目の前がホワイトアウトする。絶頂の余韻で意識に靄がかかる。
それでも、私たちはしばらくの間離れようとしなかった。
狭い室内に二人分の荒い呼吸音が響き、それが収まるまで、互いの身体を抱き締めていた。



「さてと…何か言いたいことがあるなら聞きましょうか?」
病室に戻った私は、来た時と同じように椅子に腰掛けていた。
シンジ君はと言うと、ベッドの上に正座して、叱られた子犬のようにうなだれている。
「いえ、ありません…」
小さな声でシンジ君が答える。
「毎度のことだけど…ちょっとシンジ君強引過ぎるんじゃない?」
「はい…ケイさんのおっしゃる通りです…」
シンジ君が小さくした身体をより一層小さくする。
その光景は見てて吹き出しそうだったけど、ここで甘やかしてはいけないので我慢した。
やっぱり彼氏の躾は彼女が責任をもってビシッとやらなきゃ、ね。
「シンジ君前にも似たようなこと言ってなかった?本当に反省してるの?」
「もう目一杯。これ以上ないってくらい反省してる」
「怪しいなぁ…じゃあ、形で示してよ」
「へ?形でって、どうやって?」
「愛してる、って、もう一回言って」
私の要求に、シンジ君は言葉を詰まらせる。やがてボソッと、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「ダメ。それじゃ聞こえない」
「……ケイ、愛してる」
それを聞いて、自然と顔が綻んだ。
「うん、まあ信じてあげましょう」
そう言って椅子から立ち上がる。
「じゃあ私そろそろ帰るから。また来るね」
「ああ。またな」
彼の言葉を聞きながらドアノブに手をかけたが、すぐに引き返す。
まだ正座したままのシンジ君に近付き、耳元で囁く。
「私もだよ」
そして、彼の頬に軽くキスをする。
「ばいばい」
顔を赤く染めたシンジ君を残し、私は病室を後にした。


(fin)

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