作品名 作者名 カップリング
「CORRUPTION」 クロム氏 -

オレは…何をしているのだろう……

オレの腕の中で、一人の少女が淫らな嬌声を上げていた。
オレはその少女の唇を吸い、肌を貪り、自分の欲望のままに彼女を汚していく。
「んあッ!あっ、うぅ……ひあぁッ!!」
少女の口から洩れる悲鳴にも似た淫声は正常な思考を奪い、オレをさらに狂わせていった。
「あっ…ふあッ、んんっ!やぁ…アっ…ンああっ!!」
快楽にもがく少女を押さえ付け、その身体を玩具にする。
熱を帯びた肌に舌を這わせ、あまり豊かではない胸の膨らみを指で弄ぶ。
「うぁあ…はぁ…あっ!ひゃっ!…あ、ン……」
少女の瞳は理性の光を失い、壊れた笑みを浮かべ、オレにしがみつく。
オレは少女の下腹部に手を伸ばし、汗と淫液に塗れた彼女の秘部に触れた。
「あっ……」
もっとも敏感な部分に触れられ、少女は僅かに身を強張らせる。
オレは少女の頬に軽く口付けをし、彼女の身体から力が抜けるのを待った。
少女の身体が程よく弛緩したところで、人差し指と中指を彼女の中にゆっくりと潜り込ませる。
「はっ…ああぁあッ!!」
少女が身体を大きくのけ反らせる。オレは構わず指を動かし、彼女の内側を掻き回す。
「やぁあ……だめっ…!あ、やっ…くっ、あ…はぁああッ!!」
指はさしたる抵抗もなく、すんなりと飲み込まれていく。
少女の肉壁はオレの指に熱く絡み付き、ギュウギュウと締め付ける。
オレが彼女から指を出し入れするたび、新たな愛液が溢れ、ベッドのシーツに染みを作っていった。
「ひゃッ!あっ!んあぁあッ!あぁぁん!」
少女はシーツの端をギュッと掴み、身を震わせてオレの愛撫に必死で耐えている。
オレはそんな彼女を愛しいと思いつつも、責めの手を緩めようとはしなかった。
「んンっ…ッ!あっ、あ…はああぁあッ!」
少女の悲鳴が、うるさいくらいに頭に響いてくる。
オレの中の一番動物的な部分が、オレにこの少女を犯せと命じる。
オレは少女から指を引き抜くと、代わりにゴムに覆われた自分のモノをあてがった。
目だけを彼女に向け、無言で許可を求める。
「いいよ…きて、お兄ちゃん……」
オレはカナミを…実の妹を、ゆっくりと貫いていった。
本来であれば、決して許されない行為。許されないと知りながら、オレはそれを繰り返す。
夜毎カナミを抱き、カナミと交わり、終わりのない快楽に溺れていく。

後悔、興奮。狂気、悦楽。背徳、欲望。

オレは…何をしているのだろう……




オレ達が兄妹の一線を越えてしまったのは、今から一月ほど前のことだ。
「お兄ちゃん、エッチしよ」
あの日、カナミはオレの部屋に入ってくるなりそう言った。
いつもと変わらないカナミの冗談。オレはそのくらいにしか考えていなかった。
だから普段どおりのツッコミを入れれば、そこで兄妹のコミュニケーションは完結するはずだった。
なのに……
「私は本気だよ。抱いて…お兄ちゃん……」
あの時…なぜオレは、カナミを止めることができなかったのだろう。
それが絶対に許されないということくらい、よくわかっていたはずなのに。
あの日……オレは誘われるままにカナミを抱き、この手で実の妹の純潔を奪った。
なぜそんなことをしたのか、自分でもよくわからない。
あまりに真剣なカナミの様子に気圧されたのか、それともカナミを女として見てしまったのか……。
いずれにせよ、オレがカナミを汚したのだという事実に変わりはない。
そして…一度道を踏み外してしまえば、堕ちるのは簡単だった。
あの日以来、オレ達は毎晩のように交わり、背徳塗れの行為を繰り返すようになった。
そこにはタブーを犯すことでしか得られない形容し難い快楽と、
タブーを犯すが故に生じる言い様のない恐怖とが混在していた。
オレは心のどこかで夜がくるのを待ち望み、心のどこかで夜がくるのを畏れている。
夜になれば、また罪を犯してしまうから…大切な妹を汚してしまうから……
しかしそう思う一方で、オレはカナミを拒むこともできずにいた。
意思とは無関係に、オレの身体がタブーを犯す快感を覚え、それを欲している。
矛盾した感情をどうすることもできないまま、一つ、また一つ、罪を重ねていくのだ。

そして、今日もまた、夜がやってくる……



明かりの消えた部屋。
カナミはオレの前に立ち、着ているものをゆっくりと脱いでいった。
一枚、また一枚…露になった白い肌が、暗い室内でぼんやりと浮かび上がる。
カナミは最後の一枚を脱ぎ捨てると、オレの首に腕を絡ませた。
「お兄ちゃん…キスして……」
オレは言われるままにカナミを抱き締め、その唇に自分のそれを重ねた。
「ん……」
柔らかい唇の感触。鼻先にかかる熱い吐息。密着した肌から伝わるカナミの体温。
カナミと唇を重ねた瞬間、また一つ、オレの中で大切な何かが壊れた気がした。
「お兄ちゃん……」
カナミの目に、歪な情欲の炎が燈る。
そしてその目は、オレを抗うことのできない狂気へと引き摺り込むのだ。
「お兄ちゃん…私のこと、好きにしていいよ」
カナミの声が、辛うじて残っていた理性とか道徳とかいったものを消し去っていく。
理性の剥がれ落ちた下から顔を出すのは、肉体的快楽を渇望する浅ましい欲望だ。
オレはカナミの身体を乱暴にベッドに横たえ、その上に覆い被さった。
頬。首筋。胸。腹部。順番に、ゆっくりと…撫でるように指を這わせていく。
すると白かった肌は赤みを帯びていき、官能的なデコレーションとなってオレの劣情を掻き立てた。



カナミを抱きたい。カナミの柔らかな肌を、欲望のままに貪りたい。
それ以外に何も考えられなかった。凶暴な衝動が、オレの全身を支配していく。
その衝動につき動かされ、オレはカナミの再び唇を塞いだ。ただし、今度はもっと乱暴に。
舌先でカナミの唇をこじ開け、わずかにできた隙間から舌を捩じ込んだ。
「んんっ…んむ……ッ」
カナミが苦しそうに眉を顰め、くぐもった声をあげる。
だがオレはそれを無視し、カナミの狭い口腔を一層激しく犯していった。
頬の内側をくすぐり、舌を吸い、流れ込んでくるカナミの唾液を嚥下する。
反対にオレの唾液をカナミの口の中に送り込み、二人分の唾液を混ぜて飲み込ませる。
重ねた唇の端から溢れ出た唾液は頬を伝って流れ落ち、カナミの可愛い顔を汚していく。
カナミの口腔を思う存分味わい、ようやく唇を離す頃には、オレもカナミも唾液塗れになっていた。
「お兄ちゃん…もっといっぱいエッチなことしよ?」
カナミの目に宿った歪な炎が、さらに大きく燃え上がる。
カナミはオレの手を取ると、そのまま自分の胸へと導いた。
「えへへ、お兄ちゃんが毎日揉んでくれるから、ちょっとは大きくなったでしょ?」
さしたる違いは見受けられない気もするが、その部分はやはり妹が女であることを主張していた。
女性特有の柔らかな感触。熱。心臓の鼓動。掌を通して、様々なものが伝わってくる。
ほとんど無意識のうちに、オレはカナミの胸への愛撫を開始していた。
「あっ…ん……」
片手で覆い隠せるサイズの乳房を丹念に揉みほぐすと、カナミの頬が見る間に上気していく。
続いて、乳房の先端を捏ねるように刺激すると、その突起は徐々に固くなっていった。
「んっ……ふぁ、くぅ……」
固くなった乳首を指先で弄ぶと、カナミの吐息に甘い喘ぎが混ざり始める。
その反応を楽しみながら、もう一方の乳房にも手を伸ばし、同様に弄ぶ。
「あっあっ…はあっ、あうっ…んっ、んああっ……」
左右の乳房を交互に愛撫し、時折乳首を指先で軽く摘み上げる。
そのたびにカナミは淫らな声をあげ、身をよじらせてオレの愛撫に耐えていた。
「んっ、あぁ…あっ…もっと…もっとして…ンッ……」
カナミがより大きな快楽をねだる。
オレはカナミの乳房に舌を這わせ、先端の突起を口に含んだ。
「あぁんっ!ふぁっ…ん…んっ、ああっ…!」
舌の先で乳首を転がし、強く吸い上げ、奥歯で甘噛みにする。
空いた手でもう一方の乳房にも愛撫を加え、左右を同時に責め立てる。
「はあぁっ!んっ、あ……ああッ!」
オレは胸を責め続けながら、目だけを動かしてカナミの表情を盗み見た。
口許はだらしなく弛緩し、唇の端からは涎が滴っている。
目に燈った情欲の炎は身を焦がかんばかりに燃え盛り、理性を退ける。
上気した肌にうっすら汗が滲み、暗い部屋の中で蠱惑的に輝く。
カナミの顔に浮かんでいるのは、明らかな悦楽の表情であった。
「うあぁっ…んっ!ふぁっ!あ…んッ!」
それを証明するかのように、カナミの淫声が部屋の空気を震わせる。
快楽に溺れていくカナミの姿は息を呑むほど美しく、そして妖艶だった。
しかし、まだ足りない……



もっと激しく、もっと深く…カナミが快楽の淵に沈み、二度と這い上がれなくなるまで……
オレは胸を弄んでいた手をカナミの下腹部へと滑らせていった。
カナミの下半身は愛液に塗れ、腿の内側だけでなくシーツにまでシミを作っている。
オレはその中心――カナミの秘裂に、そっと指を這わせた。
「ああぁっ!!」
軽く触れているだけなのに、カナミの淫声が一際甲高くなる。
秘裂に沿って指を上下させると、それに合わせてカナミが身を捩らせた。
「はぁあっ…うっ、あ…あぅッ!」
カナミの秘部から、さらに大量の愛液が溢れ出てくる。
オレはそれを掬い上げると、指を二本、カナミの中に潜り込ませた。
「ひぁあッ!?」
強過ぎる刺激にカナミが悲鳴をあげるが、構わず内側を掻き回す。「あぅっ!んあぁっ!はぁッ、ん…んンっ!」
カナミの秘部はグチュグチュと卑猥な水音を立てながら、オレの指を飲み込んでいく。
カナミの肉は指に熱く絡み付き、指を動かすたびに新たな愛液を撒き散らした。
「ふぁあっ!やぁっ…あっ、あぅっ!」
カナミの腰が浮き上がり、オレの責めから逃げようとする。
オレはカナミが逃げられないようしっかり押さえ付け、さらに激しく中を掻き回した。
「やぁっ…いくっ……いっちゃ……ッ!」
息も絶え絶えになりながら、カナミが絶頂が近いことを告げる。
オレは一度ギリギリまで指を引き抜くと、一気に根元まで挿し入れた。
「あああぁぁッ!!!」
次の瞬間カナミの身体が大きくのけ反り、続いてガクガクと痙攣し始めた。
絶頂の余韻に肌を震わせ、焦点の定まらない目が宙を泳いでいる。
オレはカナミから指を引き抜くと、カナミの呼吸が整うのを待った。
しばらくの間荒く不規則な息遣いが部屋を支配し、それもやがて消えていった。


二分ほどそうしていただろうか。
カナミがのろのろと起き上がり、オレの方ににじり寄ってきた。
「えへへ…すっごく感じちゃった。お兄ちゃん、テクニシャンだねぇ」
冗談めいた口調でそんなことを言いながら、オレの身体に腕を回す。
カナミはオレにキスをすると、そのままオレを押し倒した。
「お兄ちゃん……今度は一緒に気持ちよくなろ?」
カナミは一旦オレから離れると、脱ぎ捨てた服のポケットからゴムを取り出した。
「フフ…私が付けてあげるね」
カナミが慣れた手付きでオレのモノにゴムを装着させる。そして付け終わると再びオレの上に跨がった。
「お兄ちゃん、入れるよ……」
オレのモノを自分の入口に宛てがうと、ゆっくりと腰を沈めていった。
「はっ…ああぁぁッ!」
オレのモノを根元まで飲み込んだカナミが身体を硬直させる。
二度三度と肩で息を吐き、そして徐々に腰を上下させ始めた。
「あっ…ん、あ…ふあぁっ!ああっ!」
カナミが動くたびに、カナミの中でオレのモノが暴れ回る。
ゴムを隔てて絡み付く粘膜の感触が、痺れるような快感となって全身を駆け巡った。



「あァッ!んっ…お兄ちゃん…私の中、気持ちい…い?」
憑かれたように腰を上下させるカナミが、妖しい笑みをオレに向ける。
カナミの中は狭く、痛いくらいにオレのモノを締め付けていた。
込み上げてくる快感が脳味噌を麻痺させ、正常な思考を奪っていく。
もう、どうでもよかった。単純に、目の前の少女の肉体をメチャクチャにしたかった。
オレは身体を起こすとカナミを抱き締め、下から乱暴に突き上げた。
「うあぁっ!あッ、あんっ!おにいちゃん…いいッ…きもちいいよォっ!」
華奢な身体を突き上げるたびに、カナミの口から快楽の悲鳴が飛び出す。
オレは熱に浮かされたみたいに、ひたすらカナミを犯し続けた。
「ひあっ!あぁんッ!くふぅ…んンっ!」
カナミが嬌声を上げ、込み上げてくる快楽に全身を震わせる。
カナミの身体を突き上げるたびに汗が飛び散り、キラキラと蠱惑的な輝きを放っていた。
「うぁっ!あっ…お兄ちゃ…も…ダメ…またいっちゃうっ…!」
絶頂が近いのか、カナミの声が途切れがちになる。
その一方で、オレも自分の限界が近付いてきていることを感じていた。
「あ、んっ…おにいちゃんも…イきそうなの?いいよ…一緒にきて……ッ!」
カナミの膣が収縮し、オレのモノをさらにキツく締め付ける。
オレはカナミの身体を抱き締めると、一気にスパートをかけた。
「ふぁあッ!あんっ!あ…あッ!あぁッ!」
腰と腰が激しくぶつかり合い、そのたびにオレの上でカナミの身体が跳ねる。
強烈な快楽のうねりが身体の最も奥深い場所から爆発的にせり上がってくる。
「やっ…あぁッ!あんっ…いくっ…んあぁッ!」
そして、限界に達したオレはカナミの中で精を爆発させた。
「あ、あっ…うぁああああっっ!!!」
ドクドクと音がしそうなくらいの勢いで、ゴムの中に精液が吐き出される。
その瞬間カナミも絶頂をむかえ、身体をビクビクと小刻みに痙攣させた。
絶頂の余韻が全身に広がっていき、身体の力が抜けていく。
オレたちはつながったままの格好で抱き合い、しばらく動けなかった。
「お兄ちゃん…大好き……」
カナミが耳元で囁く。
しかし、欲望から解放された今のオレに、その言葉は、何故かひどく虚しく響いていた……。


オレは…何をしているのだろう……
今まで何度も浮かんでは消えを繰り返してきた疑問に憑かれ、オレは眠れないでいた。
いつもそうだ。
カナミを抱き、浅ましい欲望を解消した後はいつも、激しい自責の念に襲われる。
妹を汚すことへの罪悪感。欲望を抑えることのできない自分への嫌悪。そして、自分がしたことへの後悔。
様々な思いが頭の中でグルグルと渦を巻き、纏まり切らないうちに霧散していく。
やめなくては。こんな行為が、いつまでも許されるはずがない。
それはわかっていた。わかっていたからこそ、抗えない自分に腹が立った。
何度も自分に言い聞かせてきたのはずなのに……。
オレは起き上がり、隣りで静かな寝息を立てているカナミを見た。



どんな夢を見ているのだろう?カナミは安らかな寝顔を浮かべている。
昔と同じ――オレたちがどちらもガキだった頃と何一つ変わらない、幸せそうな寝顔。
それを見たオレは、ぼんやりと昔のことを思い出していた。
『わたし大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!』
仲のいい兄妹なら、一度は交わすであろう会話。オレたちもそうだった。
あの頃はカナミに…妹に慕われることが、ただ単純に嬉しかった。
しかし、オレたちはもう、あの頃のガキではない。社会のルールも理解しているはずだ。
それなのに、こんなことを繰り返している。明らかにルールから外れた行為を。
カナミはオレの大切な妹だ。それは今も昔も変わらない。
それなのに、オレのしていることは何だろう。

自分が、ひどく惨めに思えた。

―――終わりにしよう。
もう普通の兄妹には戻れないかもしれない。だけど、それでも……
オレがまだ、兄貴でいられるうちに。
オレたちが、兄妹でいられるうちに。
オレはカナミを起こさないように立上がると、そっと、部屋を後にした。


次の日の晩、オレはカナミの部屋を訪れた。
「お兄ちゃん、どうしたの?あ、ひょっとして待ち切れなくなった?もー、若いんだからぁ」
冗談めいた口調で笑うカナミに、オレは用件を告げた。
自分が何と言ったのかは覚えていない。ただ、カナミの笑顔が次第に強張っていくのは理解できた。
「え…どういうこと?アハハ…私に飽きちゃった……?」
カナミが無理に笑顔を作ろうとする。だが、その笑顔はひどく不自然だった。
「どうして……?わたし…お兄ちゃんのこと好きだよ……?」
カナミがノロノロとオレに近付いてくる。オレはカナミを直視できない。
「わたし…もっとエッチなことでも頑張るから…だから…そんなこと言わないでよ……」
カナミの声は次第に掠れていった。
「どうして…?お兄ちゃん、どうしてなの!?やだよ!!そんなのやだよ!!」
最後の方は絶叫に近く、うまく聞き取れなかった。
カナミはオレの胸にすがりつき、声を上げて泣き出した。
「やだよ…お兄ちゃん…そんなのやだよ……」
力なくそう呟き、肩を震わせて泣く。
その姿はあまりにも弱々しく、気が付くとオレはカナミを抱き締めていた。
「お兄ちゃん……」
カナミの泣き声は次第に大きくなり、終には号泣に変わった。
泣きじゃくるカナミの頭に手をやり、子供にするように、そっと髪を撫でる。
オレはカナミが泣きやむまで、ずっと、そうしていた。




どれくらい時間が経っただろう?
カナミの泣き声も今では啜り泣き程度になっていた。
「お兄ちゃん、ごめんね…もう大丈夫だから……」
そう言ってカナミがオレから身体を離した。
泣き腫らした目が、真っ赤になっている。涙は止まっていない。
それでもカナミは、涙を拭ってゆっくりと喋り出した。
「私たち…兄妹だもんね……。やっぱり、おかしいよね……」
一言一言区切るように、ゆっくりと内側を吐露していく。
「わかってた…こんなことしてちゃいけないって……。でも…でもわたし……」
オレはカナミの言葉を遮るように、もう一度カナミを抱き締めた。
それ以上聞くのが辛かったから。恐らく、オレもカナミと同じ気持ちだから。
カナミはオレの胸に顔をうずめたまま、ぽつりと口を開いた。
「お兄ちゃん…終わりにするから…これで最後にするから……
だから最後にもう一回だけ、私のわがまま…聞いてくれる?」
オレはしばし迷ったが、あの涙を見せられて、その願いを拒むことはできなかった。
オレは一度だけ頷いてみせた。
「じゃあ、先に部屋に行ってて…私もすぐ行くから……」
もう一度頷くと、オレは無言でカナミの部屋を出た。
これでいい。
恐らく、もう元通りにはならないだろう。だが、それでよかった。
オレはまだ、カナミの兄貴でいられるから。
オレたちはまだ、兄妹でいられるから。


お兄ちゃんが部屋を出ていくと、私は耐え切れずその場に泣き崩れた。
初めからわかっていた。私たちがしてるのは『イケナイコト』だって。
私たちは兄妹だから……それは許されないって、わかっていた。
だけど、それでも……
「私は…お兄ちゃんが好き……」
何もいらない。お兄ちゃんさえいてくれたら、他に何もいらない。
私はノロノロと立上がり、机の引き出しからコンドームを引っ張り出した。
全部で四つ…私は別の引き出しから縫針を取り出し、それをゴムに突き刺した。
針は思ったより簡単にゴムの膜を破っていく。
ちょっと見たくらいではわからない小さな穴。だけど、これでもう避妊具は意味を成さないだろう。
「お兄ちゃん、後でこれに気が付いたら、どんな顔するかな……」
その時のお兄ちゃんの顔を想像すると、自然と笑いが込み上げてくる。
四つ全部に穴を開け終え、それをポケットにしまった。
「フフ…お兄ちゃん、これでずっと一緒にいられるね……」
どうなったって構わない。私は、お兄ちゃんと一緒にいられればそれでいい。
どんな結果になったって、後悔なんかしない。どこまでも堕ちていけばいい。
「お兄ちゃん…一緒に堕ちよう……」
ふと顔を上げると、壁に掛けた鏡に私の顔が写っていた。
「大好きだよ、お兄ちゃん」
鏡に写った私は、自分でもゾッとするくらい、幸せな笑みを浮かべていた。


(fin)


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