作品名 作者名 カップリング
「もう一つのサマータイム・ブルース」 郭泰源氏 シンジ×ナツミ

(…ふう…)
今岡ナツミは、その日何度目かのため息をついた。
(…なんだか…飽きちゃったっていうか…ダレちゃったっていうか…)
夏休みも終盤――――
予備校と図書館の往復でひと夏を終えようとしていることに、彼女は空しい思いを抱いていた。
元々しっかり者で頑張り屋のナツミ。成績も常に学年上位であり、
夏休み前にはとある大学の推薦枠での受験を勧められたこともあった。
それでも彼女は憧れである後楽園大学に正面から挑むつもりで―――
この夏は受験生として過ごすことを決意し、それなりに成果もあがってきたところだった。
……しかし今は……ちょっとしたスランプというか、ブルーな気分に陥ってしまっていた。
(…城島くんは…今頃、なにをしてるんだろう…)
ふと、ナツミは同じクラスの城島シンジの顔を思い浮かべていた。
同じ風紀委員で席が近いということもあり、シンジとナツミは一緒にいることが多かった。
性格的にもウマが合うというのか、異性として意識せずにいられる友人として付き合ってきた。
…………少なくとも周囲からはそう見られている、はずだった。
(…城島くん…)
だが、随分前から……ナツミは、シンジのことをはっきりと異性として意識していたのだった。
さっぱりとした性格と腕力の強さからそうは見られないが、実は恋に臆病なナツミ。
これまでも何度か自分の思いをシンジに伝えようとしたのだが……
そのたびにシンジの悪友・新井カズヤに邪魔をされたり、
シンジがニブチンなため気付かれなかったりでことごとく失敗し、
ふたりの仲は友人状態のままというのが実際のところだった。
(…城島君も進学志望なんだよね…なら、『一緒に勉強しない?』とか…言えるわけないかあ…)
ふ―――っ、ともう一つため息をついた後、ナツミは机の上につっぷした。
(あ〜〜〜〜、もう!こんな日は気分転換に…)
がば、と跳ね起きて携帯電話を取り出し、誰かにかけて話をすると……
ナツミは、急いで出かける準備を始めた。
£
暑かった。8月最後の週にしては、猛烈な暑さだった。
「もう…びっくりしちゃったよ、ナツミ?いきなり『遊びにいかない?』って…」
「ごめ〜〜ん、キョウコ…でもさ、夏休みの最後くらいちょっと遊びたくって…」
久しぶりに受験勉強以外の用事で町に出るナツミは、それでもうきうきとした気分だった。
ふたりでたわいもない友人の噂話などをしながらしばらく駅に向かって歩くと、
キャミソールから出た肩の皮膚がちりちりと陽に焼けるような感覚がした。
(今年は…海にもどこにもいかなかったし…)
普段活発な自分でも珍しいと思えるほど、真っ白な肌をしていた。
(来年…大学に合格したら…城島君と、海に行ったりとか…できたらいいナ…)
そんなことを考えながら、ふとショーウィンドウのガラスに映った自分の姿に目をとめた。
(スタイルは…我ながら結構良い方だと思うし…目だって大きいし…悪くないと思うんだけどな…)
なぜか思うことはそればかりになってしまうナツミ。彼女も思春期なのである。
「?どうしたの、ナツミ?」
「ううん、ゴメン。なんでもない…あ、あれ?!」
ふと目をやると、家を出る前からずっと気にかかっていた当の人物であるシンジが、
なにをするでもなく店の壁にもたれかかってボ――ッとしているのを見つけた。
(わ…わわわ、じょ、城島君?)
あまりの偶然のイタズラに、一瞬固まるナツミ。
「あ!城島君じゃん!お〜〜〜い、城島く〜〜ん!」
友人のキョウコもシンジの姿に気付き、彼に向かって手を振り始めた。
(ちょ、ちょっと待って!!!)
内心慌てふためくナツミだが、シンジは声に気付いて彼女達の姿を認めると、
小さく微笑んで手を振りながら近くまで歩いてきた。
「よ――っす、久しぶりだな…」
「ひ、ひさしぶり…城島君」
「久しぶり〜、城島君。誰かと待ち合わせ?あ!もしかして…で・え・と・とか?」
(キョウコ、ああ、アンタ!)
§


冗談ぽく聞くキョウコにまたも慌てるナツミだが、シンジは苦笑して答えた。
「いや、だったらいいんだけどね…実際のトコロは妹達のおもりっつーか…」
「遅れてゴメ〜〜〜ン!お兄ちゃん!あれ?あ!お久しぶりです、先輩!」
「こ、こんにちは、カナミちゃん…」
「カナミおせえよ…あれ?他のみんなは?」
「今来るよ!お〜〜い、エーコちゃん、チカちゃん、こっちだよ〜!」
カナミ・エーコ・チカと次々に登場し、あっという間にシンジは女の子に囲まれてしまうのであった。
「わ!カナミちゃんそっくり…」
「初めまして!シンちゃんとカナちゃんの従妹、エーコです!」
「エーコの友達で、チカです…」
城島兄弟の従妹だというエーコは、カナミに似た元気の良い可愛い子だった。
その友達のチカも、清楚な感じのするなかなかの美少女だった。
(城島君は…いつもこんな可愛い子たちに囲まれてるんだ…)
別に毎日囲まれているわけではないのだが…なぜかそう思って胸が痛くなるナツミ。
しばらく話していると、見覚えのある金髪でショートヘアーの少女がシンジたちに近づいてきた。
「カナミ、遅れてゴメ〜〜ン!あ、お兄さん!それに先輩?」
「ああ、矢野ちゃん…悪いね、いつも付き合わせて…」
「そんなことないですよ!私もちょうど予定無くてヒマだったし」
シンジとアキは、親しげに話し始めた。
(1年の矢野さん…だっけ?城島君と仲良いよね、学校でもよく話してるし…)
そんなシンジ達の様子を見ながら、
(……城島君は、やっぱりいいナ…)
と思うナツミ。優しく穏和で人と争わない性格のせいか、
シンジの周りには男女を問わず人が集まることが多かった。
あの変態・カズヤのことも、問題教師・小宮山のことも、
呆れながらも普通に付き合っているのはシンジくらいのものだった。
(……城島君は、誰にでも優しいけど……)
たまには、自分のことを――自分のことだけを――見て欲しい、
とナツミは乙女チックなことを思っていた。
「アキちゃん、今日は下のお手入れ大丈夫?最近剃毛プレイに凝ってるんでまだなら私に…」
「させるかあッ!!!キチンとしてきたわあッ!」
「ふたりとも頼むから町中でそういう発言は…あと水着セクハラ発言も今日は無しだぜ?」
そんなナツミの思いを勿論知らないシンジはいつものとおりツッコミ役をこなしていた。
「あれ?もしかして城島君達、海とか行くの?」
「いや、近場で済まそうと思ってね。市民プールにでも行こうかなって…」
「ふ〜〜〜ん?ねえ、私たちもご一緒させてもらってもいい?」
「き、キョウコ!」
「いいじゃん…どうせこの後計画らしい計画も無かったんだし」
「別にいいけど…でも、いきなり一緒って、水着とかはどーすんの?」
「市民プールだよね?じゃ、先に行ってて!私たちも水着取りに行って後で追いつくし!」
「ああ、わかった……じゃあ後で…」
シンジ達は先に駅に向かい、ナツミ達は急遽水着を取りに帰ることになった。
「キョウコ!あんたなんでいきなり…」
「いいじゃん。気になってるんでしょ?城島君のこと」
「!!!な、なんで知ってるの!」
「はははは!正直だよね、ナツミは。アンタの様子見てれば気付くって、そんなの。
今日は新井君も一緒じゃないし、上手くいけば距離を縮めるチャンスかもよ?」
「う…」
図星である。実はナツミ自身もシンジと一緒に行けたらいいな、と思っていたのだ。
「それにナツミ今年は全然焼けてないじゃん?今日は暑いしさ、
夏の最後の思い出作りにちょうどいいじゃん!さ、水着取りに帰ろ!」
ちょっとトロそうな外見に反して、意外に強引なキョウコ。
「う、うん…わかった…そうだよね、夏の…最後なんだし…」
自分自身に言い訳をしながら、ナツミは自宅まで水着を取りに帰るのだった―――
§


「さっきメールあってさ。ウォータースライダーのあたりだって、城島君」
「う、うん…」
去りゆく夏を惜しむのか、ただ単に猛暑のためか、市民プールはかなりの人出だった。
(えっと…派手じゃないよね?これくらい…)
散々迷ったあげく、ブルーを基本色としたペイズリー柄のツーピースの水着を選んだナツミ。
「なに不安そうなカオしてるの…ナツミはスタイル良いよ?自信持ちなって!」
彼女の迷いを和らげようとするかのように、ぱん、とキョウコはナツミの肩を叩いた。
「うん…ありがとう、キョウコ…」
「あ!城島君見っけ!お〜〜〜い、じょ〜うじ〜まく〜ん!」
両手にソフトクリーム、それにビニール袋を肘にかけて歩いていたシンジは、
少し情けなさそうな顔をしてその声に答えた。
「よっす…思ったより早かったね、ふたりとも」
「うん…それは…みんなの分?」
「ああ…ははは、これじゃおもりっていうか、俺ほとんどパシリだよな」
「ふふ…そんなことないよ。相変わらず良いお兄ちゃんじゃない」
腕いっぱいにアイスを抱えているシンジの姿はどことなくユーモラスだった。
「えっと…ふたりともアイスモナカで良かった?」
「え?あたし達の分も買っておいてくれたの?」
「いや、買ってから気付いたんだけどさ。お前らが遅かったら溶けちゃうかも、
とか思ったんだけど。でも今会えたし、ちょうど良かったみたいだな」
「わ〜〜い、気前いいね!城島君!」
少しおおげさな仕草で、キョウコが喜びの声をあげた。
(こういう、完璧じゃなくて、優しいところが…)
シンジの良いところだな、とナツミは思った。ちょっと間抜けな感じだから、
無理している感じも、押しつけがましい感じもせず―――
相手は自然なうちに、その好意を受入れてしまう。
「じゃ、じゃあさ。悪いから、せめて私アイス持つね?」
「ああ…わりいな…あっちの方でみんな待ってるから…」
少しぎこちなくだが…ナツミは、シンジからアイスの入ったビニール袋を受け取った。
キョウコはニヤニヤとそんな彼女のことを見つめている。
「あ、おにいちゃ〜〜〜〜ん!」
しばらくすると、シンジ達を見つけたカナミが手を振って呼んだ。
「コラ、カナミ。だから外ではあんまりそう呼ぶなって…」
「じゃあ、ごしゅじんさ………」
「「もっと悪いわああ!!」」
アキとシンジのWツッコミが炸裂したところで、全員一休みしてアイスを食べ始めた。無論、

「あ!カナちゃん、そっちの美味しそうだね!」
「じゃあ、食べてみる?」
"ぴちゃ…""ぷちゅ…"
と、従姉妹ふたりのWフェラボケが一回あったのは言うまでもない。

(小声で)「だからわざわざボケられる可能性の少ないアイスモナカを多めに買ってきたのに…」
(小声で)「す、すいませんお兄さん…なにも考えずについカナミにキャンディーを渡してしまって…」
ひそひそと話すアキとシンジ。そんな姿を見て、闘気を燃やす少女がひとり。
「アキさん!」
「わ!び、びっくりした!なに?チカちゃん?」
「向こうで…少し話があるんですが、よろしいですか?」
「?べ、別にいいけど…」
二人は、どこかへと歩いていった。
「ほ〜らね?ナツミ」
「どうしたの?キョウコ」
「ぼやぼやしてると…城島君、危ないかもだよ?」
「え?ど、どういう意味よ」
「あの子…チカちゃんだっけ?城島君のこと、多分好きだよ?それにあの矢野って子も…」
§


「!!キョウコも…そう思う?」
「ウン…ナツミと話してるとき、城島君すごく自然に笑ってて良い感じだな、
って思ってたけど…矢野さんと話してるときも、そんな顔してるんだよね…」
「…」
「それに…あのふたり、すごく仲が良いっていうか…気が合う感じじゃない?」
ナツミはちら、とシンジを見た。またエーコとカナミがなにかボケたのだろう、
呆れた表情でシンジはなにやらふたりにツッコんでいた。
「だからさ、…ナツミ?」
キョウコがナツミの耳元で囁くように言った。
「な、なに?」
「今なら…チャンスだよ?チカちゃんも、矢野さんもいないし……
城島君を誘ってさ、本心を聞き出さない?」
「ほ、本心って…でも…」
「もう!普段は平気なくせに、変なところでオクテなんだから……
しょうがないなあ…えい!ねえねえ、城島く〜〜〜ん?」
ためらうナツミをやや強引におしのけると、キョウコはシンジに声をかけた。
「ん?なに?木佐貫」
「あっちのさ、ウォータースライダーってもう乗った?」
「?いや、まだだけど?」
「じゃあさ〜〜、あたし達と一緒に行かない?」
「別に…いいけど?カナミたちは、どうする?」
するとキョウコはシンジから見えない角度でカナミの方に片目をつむると、
小さく片手で拝むような仕草をした。
「…私たちはさっき行ったからいいよ。ね、エーコちゃん?」
「そうだね、じゃあカナちゃん、あっちで泳ごっか?」
キョウコに小さくウィンクを返すと、カナミはエーコとふたりで歩いていった。
「キョウコ…あんたカナミちゃんと知り合いだったの?」
小声でナツミがキョウコに聞いた。
「へへ…中学のとき同じ図書委員だったりして、少し顔は知ってるって程度だけどね。
でもま、面白いコだよ、あの子は…」
「?なにふたりで話してんの?」
「なんでもな・い・の!城島君、じゃいこっか?確かあれさ、有料だったからお金忘れずにね?」
強引にナツミとシンジの背中を押すようにして、キョウコはふたりを並んで歩かせた。
「…そう言えばさ、進学志望だったよね、城島君。どう?はかどってる?」
「ん?ああ…ま、ボチボチだよ」
「今年の夏は暑かったけど、勉強ばっかりで遊びに行けなくてつまんなかったナ…」
「はは…それでも今岡はいいじゃんか。俺なんてどこの大学でもマジで危ないんだからさ」
(でも…最後に城島君と一緒に遊びに行けて…)
本当に良かった、と思いながらボーッと歩いていたナツミの腕を突然シンジが引っ張った。
「え!?」
「危ないぞ、今岡…」
ナツミの足もとを、3歳くらいの小さな男の子が駆けてきてぶつかるところだった。
「あ…ありがとう、城島君」
シンジの意外な力強さに少し戸惑い、少しときめくナツミ。
「運動神経良いのに珍しいな、今岡?」
「あ?あれ?加藤先生じゃない?」
「ほら、イチロー?走ると危ないって…すいませんね…あれ?
あ、今岡さんに、城島君、それに木佐貫さん!」
男の子を追ってきたのは、小笠原高校の国語教師・加藤だった。
「あ…お久しぶりです、加藤先生」
「お久しぶり…あらあら、両手に花ね?城島君たら」
にっこりと微笑む加藤。清楚な美人教師と評判で男子生徒の間でもファンの多い彼女だが、
水着姿も一児の母とは思えぬなかなかのナイスバディである。
(ちなみに設定ではB87W56H88でしたね……3巻P10参照)
「そ、そんなんじゃ…からかわないで下さいよ、先生」
§


思わず照れてしまうシンジだが、キョウコは先ほどの男の子を興味津々の表情で見つめている。
「あの〜この子、もしかして加藤先生のお子さんですか?」
「ああ…そうなの。ゴメンなさいね、あと少しで危ないところだったわよね。
ほら…ゴメンナサイしなさい、イチロー?」
「はい。ごめんなしゃい…」
加藤の言葉に頭をさげ、素直に謝るイチロー。母親に似た、なかなか可愛い少年である。
「今日は家族で来たんですか、先生?」
「いえ、主人が休みとれなくてね。マリア先生と小宮山先生と来たんだけど…」
そう言ったままなぜか口をつぐむ加藤。
「……イチロー君に、なるべく悪影響を与えぬよう、ふたりから離れたと…」
「城島君、そんな本当のことをはっきりと……」
「先生、今本当のことって言っちゃってますけど…」
「!あ!」
苦笑しあう4人。確かに子を持つ親としてはあまり積極的に会わせたくないコンビではある。
「ママ、ぼくアイスがたべたい……」
「はいはい、わかりました。今度は慌てないでね?……じゃあ、私たちはここで…」
「あ、ハイ…さようなら、先生」
笑顔でシンジ達に別れを告げると、加藤はイチロー君と手をつないで去っていった。
シンジは小さく微笑みながらその姿を見送っていた。
「…ふ〜〜ん、城島君はお姉様好きなんだ〜〜?」
「な?なに言ってるんだよ、木佐貫」
「だってさ、加藤先生のこと今ニヤニヤしながら見てたもんね…ねえ、ナツミ?」
「…………エロい」
「!今岡まで…ち、違うんだって!その…いや、確かに加藤先生ってキレイだし、
俺もいいなって思ってたのはそうなんだけど…今のは違うんだよ、マジで」
「な・に・が・どう違うのかな〜〜〜♪」
なぜか妙に楽しげにシンジを責めるキョウコ。
「うん…その、子供さんと一緒にいる加藤先生ってさ、すごく優しげで…
なんだかお母さん、って顔してただろ?…ああゆうの、いいなって思ってさ…」
(そう言えば…城島君の家は今…)
そうだった。シンジの家は今、カナミとふたりきりだったのだ。
(城島君がカナミちゃんのことを…ちょっと過保護なくらいに可愛がってるのも…多分)
両親が不在であることを彼なりに心配してのことなのだろう。
だから……家庭というものへの思いが強いから……
加藤の母性的で優しげな笑顔に惹かれてしまうのだろう、とナツミは思った。
「ふ〜〜ん、城島君はマザコンのわけだ?」
「…なあ木佐貫、それって加藤先生に失礼じゃ…」
「ねえ、城島君って…もしかして結婚願望強かったりして?」
「え?」
突然のナツミの発言に驚くシンジだが…顔を赤くしながらも答えた。
「ん……結婚願望っていうのかはわかんないけど…ああいうの、いいなっては思うけどね」
「……可愛い…」
思わず、小声でナツミは呟いていた。
「ん?なんか言った?今岡」
「な、なんでもないの!」
「ねえナツミ?もしかして母性本能刺激されちゃった?」
小声でキョウコが聞く。
「だ、だから!なんでもないったらあ!」
今度はナツミが真っ赤になる番だった。
その後もまたキョウコがふたりをからかったりしながら……
やっとのこと、3人はウォータースライダーに到着した。
「……最近新しく出来たって話だけど…結構な高さだな……へえ」
シンジが見上げながら、呟いた。
「あ!ごめ〜〜〜ん!ここまで来て忘れてたけど…私、高所恐怖症だったのね?
てなわけでふたりで行ってきて!」
§


「は?」
「きょ、キョウコ!なんで今になって…」
呆気にとられるシンジと、抗議するナツミだったが、
キョウコは両耳を手で押さえて聞こえないふりをしたままニヤニヤ笑っている。
「キョウコ!あんた聞こえないフリしても…」
「……まあしょうがねえよ、今岡……木佐貫が行きたくないっつってんだから…」
「で、でも…」
「で…今岡、どうする?行く?止める?ウォータースライダー…」
「………………………………………………………行く…」
たっぷり迷った挙げ句、結局そう答えるナツミであった。
「じゃあねえ〜〜〜〜♪おふたりのご帰還を、待ってますよ〜〜〜〜♪♪」
「あんたはうるさい!」
「………なあ今岡、木佐貫ってあんなキャラだったっけ?」
キョウコの祝福(?)を受けながら、ふたりは受付へと向かった。
今日の人手にしては意外なほど空いていて、5分も待たずにシンジ達の番になった。
「はい、いらっしゃいませ!こちらでは浮き輪を使って降りて頂くことになりますがよろしいですね?」
「あ、はあ…」
アルバイトなのだろう、妙に元気な受付係の女の子に気のない返事をするシンジ。
「では一人用と二人用、どちらをお選びですか?」
「?一人用と…二人用?」
「はい!二人用は少し大きめの浮き輪になっております!
ちなみにこちらは特にカップルのみなさまにご好評を頂いております!」
((「カップル」って今時あんた……))
恐らくそういうマニュアルなのだろうが……女の子の言葉にふたりとも心の中でツッコミを入れていた。
「えっと…どうする?今岡?」
「あ、あの…私、その…えっと…」
「?じゃあ、一人用ふた…」
「あ!あれ?城島君?そう言えばこれさ、二人用の方が料金割安じゃん?
二人用にしようよ!そっちの方が絶対お得だって!」
焦ったナツミが叫ぶようにそう言った。
「?…今岡がそう言うなら…いいけど?」
二人用の浮き輪を選び、とりあえずシンジが会計を済ました。
「はい、ありがとうございます!それではこちらが二人用の浮き輪です!
これからご使用法をお教えしますので、こちらへどうぞ!」
(ありがとうキョウコ、こういうコトだったのね…)
先ほどの悪態はどこへやら、一転友人のおせっかいに感謝するナツミであった。
浮き輪と言っても大人二人用は結構な大きさで、小さなゴムボートほどの大きさがあった。
ひととおり乗り方などの説明を受けた後、シンジが浮き輪を背負い、
ナツミがそれを後ろから押す格好でふたりはウォータースライダーの階段を上っていった。
「ゴメンね…城島君、重くない?」
「いや、大丈夫だよ。思ったより全然軽いから」
「……ねえ城島君?」
「ん?なに?」
「城島君は……神宮大学が第一志望だっけ?」
「ああ…っても今の俺の成績じゃダメモトだけどな」
「じゃあ……もし合格したら……一人暮らしなんだね……この町を…出て行くんだね」
「ま、合格すれば、だけどね」
「………寂しく……ないかな?」
「?……ああ、カナミなら大丈夫だよ。来年はオフクロとオヤジ、帰ってくるって話だから…」
ナツミの必死な問いかけも、カナミのことだと誤解してしまうニブチン王シンジ。
(違う……違うの……私の…言いたいことは…)
自分の言いたいことがシンジに伝わらず、かといってそれ以上直接的な言葉を
口にすることも出来ず……ナツミはその場で泣きたくなってしまうのだった。
「そう言えば、今岡は後楽園大学志望だよな?」
「う、うん」
§


「そっか、地元に残るんだな。高校生活…あと少しでみんなそれぞれ別々か…」
「で、でも…私は…私は…」
言えなかった。普段の強い彼女が信じられないほど…迷っていた。
「?どうした、今岡?………あ!まさかお前まで実は高いところが苦手とか?」
思わず振り返ろうとするシンジだが……。
「う、ううん…そんなに…苦手ってほどでも…ないから、大丈夫」
(ダメだ…今だから…こんな顔、城島君に見せたくない…)
慌ててうつむき、顔を隠してしまうナツミ。
「?なら…いいけど?」
ふたりは、それからひたすら無言で階段を上り………最上階に着いた。
「へえ…しかし、やっぱり上から見ると高いな、今岡?」
「う…うん…」
「よっしゃ!次の次が俺らの番だな…ふう、はは…結構気合い入っちゃうな、こういうの」
「うん…ねえ?城島君……」
ナツミはそれまで静かにしていたのだが…意を決し、シンジに近づくと、手を握った。
「??え?い、今岡?」
「……確かに高いところは苦手じゃないけど、そんな得意ってわけでもないんだ。
だから…手を握ってもらっててもいい?城島君?」
「あ…ああ…別に、それくらい…いいけどさ…」
シンジもナツミも、顔を赤くしたまま自分たちの番が来るのを待っていた。
(…?やっぱこえーんじゃねーの、今岡?でも…なんだか今日のコイツ、妙に女っぽいっていうか…)
(城島君の手…おっきい…)
いくつもの思いを秘めながら…ふたりは、無言で待ち時間を過ごしていた。
「はい、それでは次の方どうぞ……」
シンジたちの番が来た。ふたりはぎこちなく、手をつないだまま…浮き輪の上に乗った。
「じゃあ…行くよ?今岡…」
「う、ウン…」
聞きようによっては結構卑猥な会話をして、ふたりは出発した。
"ざアアアアアア………"
「?A%!=きゃ、キャアアアアアアアア!!!!」
「わ、わ'&%¥UZわわわああ???」
予想外の…と言うか、予想を遙かに上回るスピードと迫力だった。思わず絶叫するふたり。
"ざぱあああああああああああ・・・・・・・"
「きゃああ!じょ、城島君!城島君!」
「だ、大丈夫…だッて、い、今岡!」
ふたりは手を離さぬよう、しっかり握りあって滑り落ちていった。
時間にすれば一瞬なのだが…ふたりにはとてつもなく長い時間に感じられていた
"ざぱああああッ!!!!!!!!!!!!!"
やっとのこと、浮き輪ごとプールに突っ込んだふたり。
「わああああん!城島く〜〜〜〜ん!!!!!」
浮き輪の中で完全にパニくったナツミはシンジに抱きついてしまっていた。
「=0I&$?い、今岡、ホラ、だだあだ、大丈夫だって……おい……」
あまりにナツミが混乱してしまったため、先に我に返ったシンジ。
(ってかお前、あの…む、胸が思いっきり…その…)
アキほどではないものの、ナツミもなかなかのヴォリュームの持ち主なわけで。
(てゆーか…ありがとう、木佐貫…いや、そうじゃなくてえ!)
「落ち着けって、今岡!ホラ、もう大丈夫だから……」
「あ?あれ?あQ$"#、ご、ゴメン!!!城島君!」
やっと我に返ったナツミは顔を真っ赤にしてすさまじいスピードでシンジから離れるのであった。
「…大丈夫みたいだけどさ、今岡?そんな勢いで離れられるとさすがに俺も傷つくんだけど…」
「…あの…その、ゴメン」
すっかりしょげかえってしまうナツミ。そんな彼女を苦笑して見ると、
シンジはその頭の上に手のひらを乗せてポンポン、と軽く叩いた。
「はは…でも今岡でも慌てるんだな…女の子っぽくて可愛かったぜ?」
「?……あ!ちょっと城島君!それって私のこと、普段どう思ってるってコト?」
§


「わ!怒んなって!冗談だよ、冗談…」
そう言って身を守るふりをするシンジ。ふたりはしばし見つめ合い、苦笑するのだった。
「ねえねえ城島君!じゃあもう一回いかない?」
「へ?って今岡、お前さっき散々…」
「このまんまじゃ悔しいの!行くよ、城島君!」
それまでの固さがほぐれ、すっかりいつもどおりのふたりに戻ったようだ。
2度目からはスピードにも慣れたナツミは、最初の絶叫とは違う嬌声をあげながらも
シンジの手をしっかりと握り、その感触を忘れないように……愛おしんだ。
―――結局それからふたりは3回もウォータースライダーを楽しんだのだった。
「おい…今岡…さすがに4回も乗ることはなかったんじゃないか?」
「へへ…でも楽しかったね〜〜〜!城島君!」
すっかりご満悦のナツミと、少々お疲れ気味のシンジであった。
「ま、これがこの夏最後だと思えば…いい思い出か…」
浮き輪にプカプカ乗ったまま、何の気無しにシンジが呟いた。
「……ねえ、城島君?」
「ん?なに?」
「あのさ…えっと…今週はさ、まだまだ暑いって天気予報が言ってたよ?」
「?……ああ、残暑は厳しいって話だよな?」
「まださ、夏は…終わったわけじゃないよ?海だって…まだ行けると思うけど…」
「??いや、そりゃそうだけど…カナミや他の子も予定が入ってるし、
カズヤや俺の周りの連中もさすがにもう…」
「だから…えっと…」
ナツミが顔を真っ赤にしたまま、シンジの手を強く握りしめる。
「!?な、なに?今岡?」
「今年は結局私もまだ海に行ってないんだよね…一緒に…海、行かない?」
「へ?」
突然の提案に呆気にとられるシンジだが…ナツミは潤んだ目で見つめてきている。
(なななな?へ?え?ちょっと今岡、それいきなりは反則、ってかボークだって…)
クラスでカズヤをしばき倒している普段の彼女からは想像もつかないほどの色っぽさだった。
「………私とふたりじゃ………ダメ?城島……くん………」
ぎゅっ、と再びシンジの手を握りしめるナツミ。仕草・表情・セリフ・タメ具合、全て完璧である。
「いや……行き、ます」
当然、それに逆らえるはずもないシンジはうなずき返すしかなかった。
£
「お帰りなさ〜〜〜〜〜〜い♪♪♪どうだった……あれ?」
首尾を確認しようと、戻ってきたナツミたちに声をかけたキョウコだったが……
ふたりの上気した顔色を見て、何があったのかを一瞬にして理解した。
ニヤニヤしながらナツミに近づくと、耳元で囁いた。
「お・め・で・と!これは完全に落ちましたね〜〜、今岡選手?で、今日の決まり手は?」
「だ・だからあ…えっと…でも、ありがとう、キョウコ…」
弁解しようとするも、キョウコの表情を見てそれが無駄だと悟り、
結局素直に感謝の言葉を口にするしかないナツミであった。
「あのなあ…木佐貫……」
そんなふたりの様子を見て、疲れたような表情を浮かべるシンジだったが……。
「それじゃ、お邪魔しないように退散しま〜〜〜〜ス!先に向こう行ってるね〜〜?」
キョウコは最後まで彼の言葉を聞かず、その場を去ってしまうのだった。
「ゴメンね、城島君。なんか今日あの子変なテンションで…」
「まあ……振り回されんのには慣れてるんだけどさ」
そう言って苦笑するシンジ………確かにね。
「あの……それで城島君?さっきの約束だけど…」
「ああ…他の奴らには絶対バレないようにな?後で何言われるか…」
「う、ウン……じゃあ、火曜日に駅前で…」
「あ、ああ…火曜日に、駅前で…」
ぎこちなくも改めて予定を確認するふたり。
その日はカナミ達と合流し、しばらく遊んだ後に帰路についたのだった――――
§


「わあ!広〜〜い!!でも………今日は人いないね?城島君」
「そうだな…まあ、8月31日だし…学生は夏休みの宿題とか課題に必死になってる頃だしな」
「その口調、城島君は大丈夫なんだ?」
「いや…実はあれから必死で終わらせた」
苦笑して答えるシンジ。8月最後の日の海辺は予想外にガラガラで………
ふたりはどこか妙な居心地の悪さを感じながら、並んで歩いていた。
「じゃあ…あっちの着替え場所でね?」
「あ、ああ…」
(この前は……あんまりそんな感じにもならなかったけど……今日はふたりっきりだし……)
ナツミは今回、ちょっと大胆なフラワー柄の紐ビキニを持ってきたのだった。
(本当はこれ、パレオもあるんだけど…)
今日はとにかく押して押して押しまくると決めてきたナツミは、完全に勝負に出るつもりだった。
「お待たせ〜〜、城島君!」
「ああ…俺もさっき……?え?」
ナツミの水着姿に思わず息をのんでしまうシンジ。
(この前で十分その…今岡のスタイルの良さは…堪能、じゃなくて分ってたつもりだったけど…)
豊かな胸にくびれたウェスト、それに細すぎず太すぎずふっくらと適度に肉付きの良い太腿―――
悪友・カズヤがひたすらセクハラ発言を繰り返し、
彼女につきまとっている理由を今更ながらシンジは理解した。
「あの……城島君…?目線がエッチなんだけど…」
非難すると言うよりは、もじもじと恥じらいの表情を浮かべ……
ナツミがちょっと抗議するような口調でシンジに言った。
「@!わ、悪い……いや、今岡がなんていうか…すっげえキレイだったもんだから…」
「?!!!もう!やだ!水着姿ならこの前も見てたくせに…」
「だってあのときは人もたくさんいたし……ま、まあそれはいいからさ、行こうぜ、今岡?」
「………ウン……」
なんとなく、うまくごまかされたような気もしたものの、
ナツミは大人しくシンジの言葉に従い、ふたりは荷物を持って砂浜に出た。
「ふ〜〜〜〜う、久しぶりだな、この…潮の匂い…」
(カナミならここでひとボケ有るところだけど…ああ、ツッコミの心配をしないですむって幸せ…)
シンジは、別の充足感にも満たされながら思いっきり海の香りを吸い込んだ。
「そうだね…私も…久しぶりかも」
「はあ…去年は何回も来たんだけど、今年はこれが初海だもんな、俺」
「………カナミちゃんと?」
「え?あ、そ、そう…だけど…」
(絶対…矢野さんや、黒田さんとかとも…一緒に来てるよね)
実は彼女たちだけじゃないんです、今岡姉さん………まあそれはさておき。
レジャーシートを敷き、パラソルを立てると、ふたりは軽く準備運動をした後に顔を見合わせた。
「よっし!じゃあ行こうか、今岡?」
「…ゴメン…ちょっとその前に…お願いしてイイ?城島君?」
「?なんだよ、今岡?」
「あの…日焼け止め、塗ってもらってもいい?」
「……@#Lえ?日焼け止めって…その…あれ?」
「うん…まだ塗ってなかったんだ…お願い…」
うるうるとした目で見つめるナツミ。……まあ男としては願ったり叶ったりな状況な訳で。
「う…うん…」
と、うなずくしかないシンジであった。
「今日は人少ないし……ここ、岩場の陰だから他の人には見えないし…じゃあ…お願い、城島君」
顔を赤くしてサンオイルをシンジに手渡し、レジャーシートの上にうつぶせになると…
"するッ……"
ナツミは、水着の紐を外した。
(お…おお…この、見えそうで見えない感じが…その…エロい…)
脇下でつぶされたような形になって広がる、ナツミの豊満なバストに思わずシンジは欲情した。
「…ねえ、城島君?」
「あ!ご、ゴメン今岡…じゃ、じゃあ…」
§


"つる〜〜〜〜"
シンジはサンオイルを手に取ると、ナツミの背中に振り落とした。
「あっ……」
「ご、ごめん今岡……冷たかった?」
「ううん…冷たくは…ないけど」
「えっと……手で…広げればいいんだよな?」
「う、ウン…お願い……」
"ぺちゃ…ぺた…つる〜〜〜〜"
(い、今岡…この前より少し焼けたのかな?……でも、ちょっと赤みかかって…な、なんだか…
色っぽいかも…それに…今岡の肌って、やらかくてすべすべで……さわり心地いいな…)
まあ、この状態で邪念を抱くなと言うのは男として酷な訳で。
(あん……あ……城島君のさわりかた……気持いいかも…)
当然、彼女にとってもこんな風に男性にさわられるのは初めてな訳で。
「ん…………ねえ?城島君?」
「な、なに?」
「あの…背中だけじゃなくて…腰とか、太腿とか…足にも塗って欲しいんだけど…」
「!……ああ…そ、そりゃあいいんだけど…い、いいの?」
「ウン…お願い、城島君……」
シンジのおずおずとしたソフトタッチが逆に良かったのか、完全に潤んでしまった目を向けるナツミ。
(?!……ってオイ、今岡…ち、ちょっと…)
こうなってしまえばシンジなどライオンの前の子鹿である。
「そ、それじゃ…」
"つるっ……ぬる〜〜〜〜、ぺた…"
シンジのタッチは続くが……その手が、下降して脇腹のあたりに触れた瞬間、
「ん………ダメ…あ!…ひゃん!」
ナツミはなんとも艶やかな、うわずった声を上げてしまっていた。
「!ゴメン今岡!くすぐったかった?」
「あの…ゴメンなさい、城島君…私、おなかのそこらへん弱いみたいで…」
「ゴメン……もっと丁寧にするから…」
「ウン…お願いします」
"ぬる…つる…ぺた〜〜〜〜"
(うわ……今岡のふともも……可愛い…)
少しピンク色に色づいた、新鮮な牡蠣のようにぷるり、とした弾力を持つ
ナツミの肢体の感触に夢中になるシンジ。
(あ…ん…男の人にこんな風にさわられるの初めてだし…それが…城島君なんて…
どうしよう…私、ヘンな気持ちに……)
"くぷっ………"
「あ!!!」
「!?ど、どうした?今岡?」
「ご、ゴメンなさい城島君…も、もう塗れたと思うし、い、いいから……」
(ヤダ…私……)
ナツミは、自分の股間からなにか……熱い液体が分泌されたことに驚いて声を上げたのだった。
(嘘…私…今……感じ…ちゃったの?)
まだそれほどではないが……自分の股間がほんの少し湿ってしまったという事実に対し、
ナツミは罪悪感と―――未知なる快感への、わずかな好奇心を抱いてしまっていた。
(まだ……城島君に、ちょっとさわられただけなのに…私…濡れちゃった……)
シンジの方はもはやどうにもならない状態で。
(やべ…やべって……落ち着け、俺……ああ…もう完全に勃っちゃってるよ、コイツは…)
……それはまあ、エライことになってしまっていた。
「な、なあ今岡?落ち着いてから海に入ろうか?
なんだか俺、もうちょっとのんびりしたいっていうか………」
「う、ウン…そうだね…わ、私ももう少し落ち着きたいかも」
ビキニの紐を結び、のろのろと体を起こすナツミ。別の意味で大いに落ち着きたいふたりであった。
「……」
「………」
§


微妙な間がしばらく続いた後……ようやく下半身が収まり始めたシンジが口を開いた。
「ふ〜〜〜ッ、どう?そろそろ…今岡?」
「う、ウン…そうね。私も落ち着いたから…」
ふたりとも、先ほどの興奮が完全に醒めた訳ではないのだが…
それでも、いつまでもこのまま座っている訳にもいかず、やっと海へと向かった。
「今岡……確か、泳ぐのは得意だったよな?」
「うん、女子としては泳げる方だと思うけど?」
「じゃあさ、あそこのブロックみたいなとこまで泳いでみない?」
「?結構遠いよね……大丈夫かな?」
「もしかして泳げても足着かないとこだと泳げない人?今岡?」
「……あんまり足の下が見えないのは、好きじゃないかも…」
「いるんだよな、そういう人。でも今日はさ、俺が一緒だから…言ってみない?
前からあそこさ、行ってみたいなって思ってたんだ」
(……城島君、珍しく男の子っぽい顔になってる……可愛い…)
普段の落ち着いた、大人びた顔ではなく――無邪気な表情を見せるシンジに、
思わず微笑みながらナツミはうなずいてしまっていた。
「いいけど…もし怖くなったら…助けてね?」
「もちろん!じゃ、行こうぜ!」
ふたりは、仲良く並んで海に入ると……競い合うように、目的地まで泳いでいった。
「…もう、このあたりで足の下見えないね……」
「あ…やっぱ怖い?今岡…」
(本当は怖くないし、思ったより気持ちいいんだけど…)
「ウン…ちょっとだけ。だから城島君?…手、握ってもらってもいい?」
「?別に……いいけど?」
シンジが手を伸ばし、ナツミはその手を嬉しそうに取ると、ぎゅっ、と握った。
(へへ……海の中だから…城島君の手、すごくあったかい…)
「よし…じゃあ、あと少しだから…」
ふたりは、しっかりと手を握ったあと…ゆっくりと、並んで護岸ブロックまで泳いでいった。
「わあ…海の温度ってもうこのあたりで少し下がるんだね…」
「そうだな…ちょっと冷たいかもな…よっと、お先するぜ?今岡」
シンジが先に到着し、ブロックの上に飛び乗った。
「ホラ………」
そしてまだ海の中のナツミに手を差し出す。
(………どうしよう…すっごく…嬉しい…)
思わず顔がニヤけてしまうのを必死で抑えながら……
ナツミはシンジの手を受け止め、ブロックの上に引き上げられるのだった。
「わあ……眺めいいね……城島君……」
「砂浜から見るより…確かにずっといいな?」
広さにしたら8畳程度といったところだろうか?長方形のブロックの上には、
シンジたち以外誰もおらず……ふたりっきりの空間になっていた。
「疲れた?今岡」
「ううん…気持いいくらい……」
(……このまま、城島君と…ずっとずっとふたりっきりでも…いいくらい……)
静かだった。浜風が潮の匂いを運び、グリーン色の海がふたりの周りを支配していた。
ナツミはこの世界にシンジとふたりだけでいるような……そんな思いで、水平線を見つめていた。
(……好きなひとと…こんな風にふたりっきりって……幸せ……)
「今岡……」
シンジがじっとナツミを見つめた。
(@!L%な…なに、この真剣な表情は…もしかして…城島君…)
「帰ったらさ、なにか食いたいもん、ある?」
―――そしてそんなナツミの乙女チックな妄想を瞬時にしてぶち壊す男がひとり。
「……おでんが食べたい…」
「そっか。じゃあ、もう少ししたら行こうか?」
(この様子じゃあ……ここまで来ても私の気持ちなんて気付いてないんだろうナ〜〜)
心の中で溜息をひとつついてしまうナツミであった。
§


「おでんだよね?俺あっちで買ってくるから……」
「ウン…お願い」
よほど空腹だったのか、小走りで売店へと向かうシンジ。
(……でも城島君が帰ってくるまでヒマだな…あ!そうだ!お城つくろ!)

※関係ないけど、しかし女の子ってのはなぜ海に行くと必ず城を作りたがるんですかね?

――――場面は変わって同じ海浜。女性がふたり、歩いていた。
「かぁあああ―――っ、全然人がいねえ――!男もいねえ―――っ!」
「あの……先輩、確かに人は少ないですけど……恥ずかしいんで大声で叫ぶのはやめて下さい」
「なに言ってんの!こんなピチピチの水着美女ふたりが歩いてるのに、
誰一人声をかけないとは何事だああああああ!海と言えばナンパだろうが―――ッ!」
「だからやめて下さいってば!先輩!」
"先輩"と呼ばれている方は漆黒のロングヘアーを後ろにまとめ、
目にも鮮やかな真っ赤なビキニを着たスタイル抜群の長身の美人。
呼んでいる方は少しタレ目気味の童顔で、こちらもなかなかのスタイルの可愛い子である。
……まあそれが中村とアイなのは今更読者に説明する必要もないのだが……
「くそッ……さすがに8月最後の日じゃあこんなモンか…私としたことが失敗したな…
せっかくアイのヴァージン喪失計画を綿密に立ててきたのに…。
こんなだったらマサたちを連れてきて、からかい倒した方がまだマシ……ん?」
「先輩……そんなことを、考えてたんですか………?」
ドスの効いた低音で聞くアイ。正直、結構怖い。
「や、やあねえ!冗談よ、冗談!でもね、アイ?
夏の海と言えば男女の出会いの場であることはこれもまた真実なのよ?」
「はあ…そうなんですか…」
あっさりアイが丸め込まれるのも、いつものふたりの光景であった。
「しっかし本当に誰も………ん?」
中村の目が、売店へと歩いてくるシンジの姿をとらえた。
(身長は……175ってところか?年は……高校生ぐらい?
顔立ちもまあまあ、性格も見た感じ良さそうだし…なにより、ちょっとマサに似た感じ…)
恐るべし、中村。その目はジャングルで獲物を見つけた肉食動物のように、
シンジの正確なデータを頭に打ち込んでいた。
「あの……先輩?」
「ねえ、アイ?私ちょっと喉乾いちゃった……ビール買いに行かない?」
「?別に…いいですけど?」
£
「ごめ〜〜〜ん、君、ちょっといい?」
「は?」
売店でナツミのおでんと自分の分の焼きそば、それにたこ焼きなどを注文し、
何をするでもなくボーっと待っていたシンジは、声をかけられて間抜けな声をあげた。
「あのさ〜〜〜、ぶっちゃけ今女ふたりでヒマしてたわけ。ちょっと一緒に遊ばない?」
(???俺の…こと?)
周りにはシンジと彼女たち以外誰もいないので当然だが……
不思議そうにシンジは周りを見渡してしまっていた。
「そ・う!君のことだって!ねえ〜遊ぼ〜〜〜よ〜〜!!」
「ち、ちょっと先輩…」
(ええっと…コレっていわゆる…逆ナンって…やつ?)
大正解。
(そりゃあ……普段なら…ありがたく、ってとこなんだけど…)
町で会えば、二人とも十分に振り返ってしまうほどの美人だった。しかし―――
(ん?あれ?片方、誰かに……あ!わかった!小宮山先生に!)
そう、あの変態教師・小宮山に似ていた。なぜか慌ててしまうシンジ。
(俺なら…どっちかと言えば、もう一人のほうが……)
小宮山似の方を必死で止めている方は――ちょっと幼い感じがするものの、
真面目で清純そうな感じの可愛い子だった。
§


「さっきも言ったでしょ?夏・海・ロストヴァージンって言えば、女の子の三種の神器だって!」
「そんなこと言ってませんし、聞いたこともありません!」
(……ああ…なんだこの既視感は…せっかくの俺の穏やかな夏休み最後の日が…)
それ以上そこにいるとなぜかいつものパターンにハマってしまいそうで、
シンジは食べ物を受け取るとコソコソと逃げ出していた。
「だいたいアンタはいつも!そんなことだからいつまでたっても処女なんでしょうが!」
「ひどい……ひどいです!先輩!」
「まったく……アレ?」
中村が気付いた頃には、シンジはとっくの昔に姿を消したあとだった。
「ちっ……せっかくなかなかの上玉だったのに…」
「でも…さっきの子、少しマサヒコ君に似てましたね……」
ちょっと遠い目をするアイ。
「……ねえ…アイ?アンタやっぱりマジでマサのこと…」
「!"?&そ、そんなんじゃありま……」
「まあ…止めはしないよ。でも奴はニブチンでモテ男でおまけに年下っていう難物だから、
結構大変な恋だとは思うけど?」
「ぐ………」
言葉につまるアイ。
「ま、この話は終わりにしとく?せっかくの海だから、ちょっと遊んでいこうか…」
「はい…先輩…」
しょんぼりしたアイを励ますように、中村がそう言うとふたりはどこかへ消えていった……
£
「……結構遅かったね?城島君?」
「ああ…ご、ゴメン…混んでてさ」
「?こんなに人少ないのに?」
「い、いや…その、売店の周りだけ人がいたんだよ、…ホラ、お昼どきだし」
まさか逆ナンされてましたとは言えないシンジ。
「?まあいいけど…おでんちょうだい?」
「あ、ああ…はい…」
ナツミの横に腰をおろし、シンジはやっと落ち着いた気分になった。
(はああ……しっかしなんだったんだ、あのふたりは……)
「城島君、なんだか疲れてる?」
「※%!いヤ!は、はは、さっき泳いだのが今頃きたのかな…あはははは…」
「?」
シンジの態度に妙な感じを受けながら…ナツミは、おでんを食べ始めた。
(わあ……風が気持いい……それに…城島君とふたりでゴハン…)
なんとなく…シンジが食べる横顔を、ちらちらと見ながらドキドキしてしまうナツミであった。
(ふふ…男の子の食べる顔って、可愛いな…やっぱり城島君のこと……
好きなんだな、私。でも………まだ、好きだって言ってない…今日は…)
「?どうした、今岡?もしかして焼きそば食いたい?」
「………違う」
シンジ君、本日2度目のムードぶち壊し。
「今岡、しかし立派な城つくったな?ガキの頃とかこういうの良く作ったけど……」
「………城島君がなかなか帰ってこなかったからね………」
(!?あれ……今岡…怒ってる?)
「じゃ、じゃあさ!これ食ったらビーチボールで遊ばないか?」
「………うん………」
ちょっと不機嫌そうに答えるナツミだが……
「え〜〜〜い♪ア〜〜〜ターーーック!!」
「おお!ちょ、ちょい今岡!」
「へへ…だらしないゾー?城島君!」
運動神経抜群のスポーツ少女・ナツミである。
始まってしまえば、上機嫌でシンジと遊びまくるのであった。
「そーーーーれ!もういっちょ〜〜〜!!!」
――――楽しげにふたりは体を動かし、やがて日が暮れようとしていた。
§


「………すごいね、城島君」
「ああ…………」
その日の夕暮れは――ただの日常なのかもしれないが――とてつもなく大きくて、キレイだった。
「海辺に家とか建てたら……毎日こんな夕暮れ見れるのかな……」
「ねえ……城島君、この前も聞いたけど…家庭を持つとか……そんなこと、考えたりする?」
「?ああ……たまにそんなこと考えたりもするけど…それどころじゃないよ、
だってその前に彼女もいないんだし」
「ねえ……それ……私じゃ、ダメ?」
「え?」
「私が…いるよ、城島君」
ナツミがじっとシンジを見つめた。そう、今日一日シンジとずっと一緒にいて気付いたこと……
(私は…城島君が好き。たとえ……進路が違っても…別々になんて、なりたくない…)
「今岡……でも、カズヤはいつもはあんなにオチャラケたこと言ってるけどさ、
本当は…マジでお前に惚れてるんだぜ?」
「……知ってる」
気付いていた。セクハラ・変態・最低発言の数々を繰り返してきたカズヤが、
本当は自分のことを―――誰よりも、好きでいてくれることを。
子供っぽい気持ちの裏返しで――自分に、つきまとっていたことを。
「俺……俺、ズルかもしれないけど…カズヤとも今岡とも友達で……いたいから……」
「イヤだよ…城島君」
「………」
「カズヤの気持ちはね、私も……気付いてたんだ。でも……残酷かもしれないけど……
私を好きになってくれる人と、私が好きになる人は……違うの……」
「今岡……俺……」
「嫌い?城島君は、私の……こと」
「……嫌いなわけ、ないだろ?だけど……」
「私は……好き。もう……どうにもならないくらい…あなたが、好き」
「今岡………」
"ちゅ……"
シンジはそのまま…ぎこちなく、ナツミと唇を重ねた。
夕暮れの海のひんやりとした匂いと、ナツミの少し甘い香りが混じって……鼻腔をくすぐった。
「わかんねえな……」
少ししてシンジが唇を離すと、苦笑しながら首をひねって言った。
「……なにが?」
「……なんで、俺なんだ?今岡くらい美人で明るくて頭良けりゃさ、
言い寄ってくる男なんていくらでもいただろ?」
「………女の子に、一番しちゃいけない質問だよ、それ」
「?そうなのか…わりい」
「ふふっ…私ね、これでも確かに結構モテるんだよ?でも、しょうがないじゃん。
城島君のことを好きになっちゃったんだから」
「…ありがとう。ま、それが一番わかんねーんだけど…」
「そういう…鈍くて、優しくて…ちょっと冷たいところかな?好きになったのは」
「ほとんどほめてねーぞ、ソレ…」
もう一回苦笑するシンジ。
「ねえ…城島君?少しだけど…花火持ってきたんだ…しない?」
「……準備いいな、今岡は」
「へへ…ライターもあるし、水はさっき飲みほした紙コップに入れとけばいいよね?さ、やろ!」
気がつけば、日はすっかり暮れてしまっていた。少し寒いので……水着から、服に着替えた。
"ぱちぱち…パチ…"
花火の光が、ふたりの横顔を照らしていた。
「……」
「………」
ふたりは、かがんだまま…無言で花火の光を見つめていた。
「今岡……明日から、学校だな…」
なんとなく、会話の糸口を見つけ出せなかったシンジがやっと口を開いた。
§


「うん………」
「明日から……多分、今までの俺たちとはちょっと違うかもしれないけど…
でもさ、その……みんなに内緒ってわけじゃないけど…」
「ふふ…わかってるよ?それに受験生だもんね、一応私たち。…そんなにチャラチャラできないよ」
「うん……」
"パチ…ぱち"
最後の花火の火種が落ちた。ふたりは、星と月の明かりしかない夜の中で――
また、無言で見つめ合っていた。
「……そろそろ帰る?今岡?」
「………」
……なにも答えずにシンジを見つめていたナツミだったが、ゆっくり近づくと……
"ちゅ…"
強引に、唇を重ねた。
「ねえ……城島君」
「……なに?」
"ぐっ……"
ナツミはシンジの手を取ると―――キャミワンピの中へと、導き入れた。
「い、今岡?」
「…………」
なおも無言のまま……さらに奥へとシンジの手を誘うナツミ。
"ふにゅ……"
「え?ええ?」
ナツミは、下着をつけていなかった。シンジの指からは、
しっとりと汗ばんだナツミの肌の感触と……柔らかな、乳房の感触がダイレクトに伝わってきた。
「今岡…お前…」
「夏の…最後の…ふたりの…高校生最後の夏なんだよ?城島君」
「……」
「私……思い出が、欲しいの……」
そう言って、ナツミはシンジに抱きついてきた。
「今岡…でも…こんなところで……」
「いい…私…城島君なら…今、ここでも……あの…それでね、城島君?」
「な、なに?」
「えっと…決まり文句かもしれないけど…は、初めてなので…優しく、お願いします」
「!!!は、はい!こ、こちらこそ……よろしく!」
「じゃ……あっちの岩陰で……」
日中もガラガラだったが、既に砂浜ではふたり以外の人影をみつけることが困難なほどだった。
それでもふたりは、周りから見えないよう岩場へと手をつないで移動した。
"ちゅっ…ちゅ……"
岩場の陰に着き、何度も何度も唇を貪るような激しいキスを繰り返すふたり。
「今岡………」
シンジは、震える指をキャミワンピの裾の中へと入れ、太腿をくすぐるように……撫でた。
「はあ…んっ…」
敏感に、愛撫に応えてしまうナツミ。
"す……"
シンジの指が、すこしづつ上昇する。
"じゅり……"
(!今岡、お前…下も…)
指に触れた陰毛の感触に驚くシンジだが、ナツミは悪戯っぽく微笑むと、ぺろり、と舌を出した。
「へへ……ヤる気満々って感じで…引いちゃった?城島君?」
「……いや、そんなことも…ないんだけどさ……」
(むしろその……逆にソソられるっつーか……えっと…OKってことだよな?)
"ぐに…ぐに…する…"
「あ……ふ………」
シンジはナツミのそこの周りの肉を揉みほぐすように…
ときに、裂け目のあたりを軽くこするように…愛撫を続けた。
§


"くちゅ……"
「あ!」
(………もしかして…もう濡れてる?今岡……)
指を、ナツミの中に入れた。そこは……明らかに、ねっとりとした蜜が溢れ出していた。
"つちゅ…くちゅ…"
軽く円を描くように……かきまぜるシンジ。
「ん……ねえ……じょうじ…あん…城島…くぅん…」
「な、なに?」
「あの……そろそろ…レジャーシート敷いて……それで……脱がせて……」
「あ、ああ…」
ナツミの言葉通りレジャーシートを敷き、腰を置くふたり。再び見つめ合い、抱き合った。
シンジはそのままキャミワンピのストラップをずらし……ゆっくりと、ナツミを裸にした。
"ふる……"
(うわ……その、なんていうか……)
星の光に照らされたナツミの裸体を食い入るように見るシンジ。
―――美しかった。ただ大きい、というのではないまん丸な美乳、
そして少し大きめの乳輪にアンバランスな小粒の乳首。
思っていたよりもずっと細い肩からなだらかな曲線を描く二の腕、それにきゅっと締まったウェスト。
腰回りはそこから連続しているとは思えないほど、ふくよかだった。
日焼け止めは塗ったものの、ほんのりと日焼けしたところから……
真っ白な乳房や陰部が光を受け、浮き出るようにシンジの目には映っていた。
「あの…城島君も……脱いで……」
「あ、ああ…ゴメン」
そのまま呆然としていたが、ナツミの声にやっと我に帰るシンジ。
Tシャツを脱ぎ、短パンとトランクスを脱ぎ捨てると……再びゆっくりと唇を重ねた。
"ちゅ…ちゅ"
お互いの髪や耳たぶをいじりながら……唾液を吸い出すようなキスを続けるふたり。
「今岡……」
シンジが、ナツミの首筋に舌を這わせた。
「あ?……きゃん…」
「まだ……俺、言ってなかったよな?好きだ……付き合って……下さい」
「?は、はい!……でもこんなときになって言うなんて……
もう…絶対断れるわけないじゃん……反則だよ、城島君……」
「……まあ、確かにな」
くすくすと、笑いあうふたり。ひとしきり笑うのを終えると、シンジは顔を伏せ、
ナツミの乳房と肩の間にある小さなくぼみに唇を押し当て、強く吸った。
「あ…ダメ…やめて、城島君…そんなことしたら…あとになって残っちゃう……」
「しるし、だよ……今岡」
「……しるし?」
「俺の……恋人だっていう……今日、ふたりがそうなったていう……しるし」
「………」
シンジの言葉を聞くと、ナツミはそのまま沈黙した。
"ちゅ………ちゅぱっ…"
シンジがやっとそこから唇を離すと、そこは赤い唇の形が残っていた。
そのままシンジはナツミの乳房に手を触れた。
「あ!……いた………」
「?ゴメン…強かった?」
「ううん…ちょっと日焼けのあとがね、動いて…ひりっとしたっていうか……」
「あ…そっか。なるたけ……そっと、優しくするな?」
「う…うん…」
"ちゅ……ふにゅ……"
乳房にキスをしたまま、ゆっくりと、優しく揉むシンジ。思ったよりそれはずっとひんやりとしていた。
ナツミは身体をよじると、シンジの首に腕を巻き付けて唇を求めてきた。
"ちゅ…"
シンジはキスをしながら、太腿のつけ根へと指を滑らせた。
§


シンジの指の動きにあわせ、びくんっ、とナツミの腰が跳ねた。
「ふ―――っ、はぁ………ん」
ナツミは首に巻き付けた腕に力を込め、苦しそうに息を吐いた。
「今岡……力、抜いて……」
"ちゅる〜〜〜〜"
シンジは舌をゆっくりと乳房から腹へ………臍へと這わせながら移動させていった。
「はぁ―――ぁ、ん……んんぅ……」
深い息を吐きながら、シンジの愛撫に応えるナツミ。
"ちゅっ"
「!きゃ……きゃあッ!!!」
脇腹に軽く一回キスをすると、ナツミは悶えながら鋭い叫び声をあげた。
「へへ……ココ弱いんだよな、今岡は……」
「もう……意地悪しないでよォ………城島君」
「わりい…あんまり今岡が可愛いから、ついちょっとイタズラしたくなって……」
とろん、とした目で抗議するナツミに謝ったシンジは、再びナツミの腹に舌をつけると……
彼女の最も深い……そこへと舌を移動させようとした。
「あ……そこ……ダメ……」
慌てて両手で隠そうとするナツミだが、シンジは無言で顔をそこへと突っ込んだ。
「ダメだよォ……汚いよ……そんなとこ……」
「大丈夫………まかせて……」
シンジは目の前に広がるナツミの陰部を至近距離で眺めた。
黒々とした陰毛が生え揃っていた。今日のちょっと大胆な水着を着るためだったのだろう、
丁寧に逆三角形に整えられたその生え際は、逆に卑猥な妄想にシンジを駆り立てた。
(ここ……今岡…風呂とかで…剃ったのかな…)
妙にリアルにその場面を思い浮かべたシンジは、ごくり、と生唾を飲むと
より顔を近づけ、陰毛をかき分けた。ほんの少し……甘酸っぱい匂いがした。
「だ、ダメ…それ以上は…恥ずかしい…」
真下の裂け目はぴっちりと閉じられ、さきほどの指撫による蜜がこぼれたあとがあった。
"くにゅ……"
「あ!」
シンジが両の人差し指で、ナツミのこぶりな陰唇をそっと左右におし広げた。
夜の闇の中でも、そこは可愛らしいピンク色をたたえていた。
柔肉の内側は少し光沢を帯び……奥には、小さな花弁に囲まれた悩ましい膣口があった。
"ちゅ…ちゅるっ……"
たまらず、吸い寄せられるようにシンジがそこに舌を這わせる。
「!はあッ……やめ……ダメ……城島君……」
ナツミが拒絶の声をあげ、きゅっと内腿でシンジの頭を押さえつけるが、
ナツミのそこはぷるぷるとシンジの口撫に応えるように細かく震えていた。
そして淡く――汗と脂の入り交じった、こもったような香りがさらに強くシンジの嗅覚を刺激する。
ゆっくりと裂け目に沿って舌を這わせると、そこからあたたかな蜜が溢れ出てくるのがわかった。
少し……酸味があった。
"くちゅ…ぷっちゅ…"
シンジは夢中になってナツミのそこを舐め続けた。
「ん………ふわぁ……」
もう彼女も小さな呻き声をあげるだけで拒む様子はない。
"とろ……"
ナツミのそこからは、後から後から蜜がわき出してきた。
"ぐぷッ!……くちゅ、ちゅく"
「きゃ?きゃあッ………」
シンジは思いっきり舌を伸ばし、中に舌を入れて舐め回し始めた。
驚いたような声をあげ、思わず腰を浮かせるナツミだが、
シンジは舌で中をかきまわし、ゆっくりと内側の両襞を沿わせるように舐め続けた。
「は―――ふぅっ……んっあ……ああああん…」
ほとんど泣き出してしまっているナツミだが、シンジからは見えない。
"つ〜〜〜〜〜〜〜〜"
§


そのままゆっくりと舌を裂け目の上部にある、包皮の出っ張りへと移動させた。
「ふあ!ああ…………」
その下には、ツヤツヤとしたややおおぶりなクリトリスが既にツンと勃起して顔をのぞかせていた。
"つちゅるっ……じゅる…ぷる"
「!??ああッ……やめ………そこは!だ、ダメぇぇぇ!」
シンジは最初そこを舌の先で転がすように舐めた後……音をたてるように吸いだした。
ぶるぶる、と全身を震わせてシンジの口撫に反応してしまうナツミ。
「可愛いし……キレイだよ、今岡…………」
"ちゅ……とろぉ〜〜、ちゅ……"
シンジはひたすらそこを舐め続けた。熱い蜜は枯れることがないように流れ続け、
いつの間にか少し白っぽい、粘り気を持ったものに変り始めていた。
(……?あ……!あ!ダメ…ダメ)
「んッ……じょ、城島君…ちょっとやめて…私…私…」
なにかの予兆を感じ、慌ててシンジに声をかけるナツミだったが、
シンジはその声にまるで反応しようともせずに舐め続けている。
"ちゅっつ…ちゅる……"
「お願い……もう……私……ち、ちょっと…あ!!!!ふぁあん…わぁああッん!!」
"ぷしゅッ………"
ナツミのそこから、大量の液体が溢れ、跳ね飛び出してきた。
"ぴゅ……ぷッ…ぴゅしゅっ…"
たっぷりとそれを顔に浴び、シンジは驚いてその体勢のまま固まってしまっていた。
(え…ええ?コレってもしかして……潮吹きって奴?)
AVで既に散々予習済みだが、初めて生で見る女体の反応に感動するシンジ。
「あ……あ……ヤダ…ごめんなさい、城島君……」
「?って、な、なにが?」
「だって私…今……城島君の顔に………私…お、おしっこ…かけちゃった…」
潮でべとべとになったシンジの顔を見て、顔を真っ赤にして謝るナツミ。
どうやら彼女にはそうしたことに対する知識があまりないようだ。
(可愛い………)
普段の強くてしっかり者の彼女からは想像がつかないほど顔を赤くして恥じらい、
照れながら謝るナツミを、シンジはどうしようもなく愛おしく感じてしまっていた。
"ぎゅっ"
「じょ、城島君?」
シンジが、ナツミのからだをしっかりと抱きしめた。
「おしっこじゃ……ないぜ、コレ。匂いもちょっと違うし」
「え?」
「まあ一説によるとそれとほとんど一緒の成分だとか言う人もいるらしいけど。
女の人の体質にもよるんだけど、その……気持ち良くなってイッちゃうと、
さっきみたいにああいう液体を漏らしちゃう人もいるらしいんだよね…」
「!じゃあ…私……これから城島君とエッチするたびにあんな風に漏らしちゃうの?」
「……いや、それは……わからないけど……」
「ふうん……でもやけに詳しいよね、城島君」
ちょっと疑わしげな目を向けるナツミ。
「……言っとくけど俺も童貞ですよ。耳学問、耳学問……」
なんとなく拗ねたような、不機嫌そうな表情のナツミだが、そこはそれ、
先ほどのしおらしい彼女を見てしまったシンジにとっては逆に可愛く思えたり。
「今岡?」
「…なに?」
「あのさ、そろそろ…いいかな?」
「!」
シンジの指が指し示したのは、既に勃起しきったペニスだった。
「……う、ウン……あの……優しく、だよ?忘れないでね?」
「わかった…じゃ……今岡、肩の力抜いて……」
「はい……」
ナツミの脚を開き、シンジは下半身を割り込ませていった。
§


既に先走り汁で鈍く光るペニスの先端を、先ほどの愛撫で既にべとべとになっている
ナツミの裂け目の先端にちょこん、と触れさせて軽くこする。
"くにゅ……"
「「ふ……ふぅ――――」」
ふたりはなぜか同時に、覚悟を決めるかのように深く息を吸い込み……大きく息を吐いた。
「じゃ…じゃあ…いくよ?」
「う…うん。来て…城島君……」
わずかに、ナツミが身体を強ばらせた。シンジは……何度かためらいながら、
彼女のぬくもりと感触を確かめるように……ゆっくり……入っていった。
「ひあッ!ああッ!」
まだ浅い進入だが………涙を流し、悲鳴をあげるナツミ。
(えっと……確か処女のときはゆっくりより…一気に挿入するほうが良いって話だけど…)
……どこからそんな知識を身につけたのか(まあ言うまでもないだろうが)、
記憶をたどってそう思うものの、目の前で苦痛に顔を歪めているナツミのことを見てしまえば、
それを実行する勇気などシンジには無いわけで。
「えっと……大丈夫?今岡?」
「う……痛い。裂けちゃいそうなくらい痛いけど……なんとか……だい、じょう、ぶ……」
(表情は……全然大丈夫じゃないんだが……)
ナツミの様子を心配するシンジだが、いまさら中断することなど生理的にできるはずもなく。
「あのさ……ちょっとこのままで……いようか」
「う…ウン…お願い……」
"さぁぁぁぁ……"
ふたりの耳には、静かな潮騒の音が響いていた。
(……!?わァ……すごい星空……)
涙を流しながら痛みに耐えていたナツミだが、ふと目を開けると……
そこには、満天の星空が広がっていた。
(城島君だけじゃなくて……私……夜空の星にも抱かれてるみたい……)
日中に思ったことを―――ナツミは、思い出していた。
(………痛いけど……ずっと……このまま城島君と抱き合っていたい……)
少しずつ…少しずつ、自分の体温があがり、火照ってくるようにナツミは感じていた。
「……今岡?」
「あ……ゴメン、城島君……もう、大丈夫……一緒に……いこ?」
まだ涙を目尻に少し残しながら……にっこりと、ナツミが笑った。
(今岡……可愛い……)
"ちゅ……"
シンジは、一回ついばむようなキスをしたあと……そっと、挿入を再開していった。
"ぐ…ずるぅっ〜〜〜〜〜"
膣口が押し広がり、シンジのペニスは亀頭から予想外にスムーズに呑み込まれていった。
「!ア……うぅん……」
ナツミは小さく呻き声をあげ、顔をのけぞらせて眉を思いっきりしかめた。
「もう…大丈夫?」
「う、ウン…多分。まだ痛いけど……さっきみたいに……
カラダをまっぷたつにされるみたいな痛みじゃ……ない……」
(さっきは……そんなに痛かったんだ……)
心が痛むシンジだが、その原因は間違いなく自分にあるわけで。
(でも……俺……もっと……今岡とつながりたい)
シンジは罪の意識にかられながらも、根元までペニスを押し込んだ。
"ず……ずぶぅ……"
「入った……今岡……入ったよ……」
「……本当?」
「うん……今岡と俺……つながってる……」
ナツミも……おずおずとだが、両手を回してシンジにしがみついてきた。
ナツミの中は熱く、ぐいぐいとシンジのペニスを締め付けていた。
(うあ……気持いい……こんな……感じなんだ……)
シンジは腰を動かすことも忘れ、ナツミの中の感触に酔いしれていた。
§


「あの……城島君?」
「あ……ああ、じゃ、じゃあ…動くよ?今岡」
「ウン……」
"ずッ……ぐずッツ……じゅずッ"
(あ……ああ……すげえ……今岡の中……すげえ…やらかくて…)
「く……う―――ッ、うう……」
ナツミは小さく堪え忍ぶような声を漏らし、甘い息を吐いていた。
"く…ちゅ、くちゅ…ずッ"
小刻みにシンジが動くたび、ふたりのつながったところから淫らに湿った音が漏れる。
"む…ふにゅ……"
シンジはそれまでよりもう少し、からだをナツミに押しつけた。
柔らかな乳房の弾力を自分の肌に感じ、思わずそのまま乳首に口づけていた。
"ちゅるッ……こり…"
吸い付き、それからたっぷりと唾液を含んでから甘く噛んだ。
「ひ……ひゃ…ああッ!」
すっかり上気し、薄桃色になった肌を波打たせるようにナツミは喘いだ。
"くちゅ!…りゅ…ぬ〜〜〜っ、ぐちゅ!"
シンジのピストン運動はもう遠慮の無いものになっていた。陰毛と陰毛がこすれ、絡まる。
そしてナツミの中は、きゅっきゅっと収縮しながらペニスを心地よく締め付けていた。
「あ……うッ……あの…今岡、俺……もう……」
「!……じょ、城島君……ゴメン、最後は……外で……」
「う…うん、分ってる……」
「それで……あの……悪いんだけど……」
ナツミが、ひどく恥ずかしそうに……口ごもった。
「どうした…?今岡?」
「あの……男の子の……最後って、どんな風だか…見てみたいの……出るところ……見せて?」
「?!?え?」
……知識は無いとは言え、好奇心はそれなりに有るらしい。
「わ…わかった……でも、そんなたいそうなモンじゃ……」
「おねがいね……城島……あッ…くん…」
"ぐ…ぬぷ〜〜〜ッ、ずッ!"
「あ……ああッ、出る…出るぅッ!!!今岡あ!!」
"ずるッ"
シンジはペニスをナツミの中から引き抜くと……彼女の胸あたりまでそれを持ってゆき、
思いっきり射精した。
"ぶッ……どプッ……"
(ううむ……AV男優ってこういう気持ちなのかしら……)
……考えることはそれか、シンジ。
(わ……こんななんだ……)
"ぴゅっ……びゅる……"
ナツミは、自分の乳房の上に吐き出される、青い精を……興味津々で見守っていた。
"ぬる……"
そのうちの一筋を、ナツミは指でたどって集めた。
「お、おい今岡?」
「ふうん……これが、本物の『せいし』なんだね……あったかくて…ぬるぬるして…
白く濁ってて…へえ……」
指についた精液をちゅるちゅると弄ぶナツミ。その様子を見ながら、なぜか気まずくなるシンジ。
"ぺろ……"
「い、今岡!」
ナツミが、突然それをぺろり、と舐めた。
「!にっが〜〜い!これ、まずいね……」
「……そうなの?」
「?自分のって飲んだこと無いんだ?」
「飲むかああああああ!」
ナツミにも実はボケ役の素質があることを発見したシンジであった。
§


「ふう……じゃあ、そろそろ帰ろうか?終電なくなっちゃうぜ……」
身支度を整えたふたりがようやく立ち上がった。
「そうだね……ふふ、し・ん・じ・君!」
「?突然どうした、今岡?」
「そう言えばさ、昔は名前で呼んでたんだよね、君のこと……
今日からまた名前に戻すよ?」
「?……別に……いいけど……」
「そ・れ・と!彼氏と彼女なんだから、腕組んで帰ろ?シンジ君!」
「……?それも……別に、いいけど?」
幸せいっぱいのナツミと、相変わらず激ニブのシンジだったが……。
「ひゅ――ッ、見せつけてくれたねぇ……オタクら……」
岩陰から、人相の悪い3人組が現れた。
「なかなか激しかったけど……次は、ボクらも楽しませてくれるかな?お嬢さん」
ヘラヘラと笑いながら、一人がナイフを取り出す。
――――だが、シンジとナツミは表情を動かさないままだ。
いや、シンジはなぜか心配そうな表情を浮かべると、その男達に向かって言った。
「……悪いことは言わない。諦めて今すぐここから逃げた方がいいぞ?」
「ぶッ!はははは、正義の味方のつもりかよ、彼氏?」
「ぎゃはははは、お前、ビビってワケのわからない……え?」
爆笑していた男は、信じられないものを見た。
女が、突然音もなく忍び寄ると……
"ゴ……………ブンッ!!!!!!!!!!!!!"
仲間の一人の顎に、凄まじい早さでアッパーカットをお見舞いしたのだ。
そして文字通り弾け飛ぶように、その男は何メートルも向こうに転がっていった。
「せっかくの…初体験だったのに……最高の……思い出になるはずだったのに……」
"ゴゴゴゴゴゴ………"
女の背中からは、男達が今まで感じたこともないくらいの圧迫感が炎のように吹き上がっていた。
「お〜〜〜い、今岡ぁ〜〜〜〜〜、そいつらはカズヤと違って、
ふつうに死ぬと思うから、あんまりやりすぎると過剰防衛に………」
のんびりとナツミにシンジが声をかけた頃には時既に遅く……。
二人目が、ナツミの強烈なボディブローを喰らって崩れ落ちようとするときだった。
「が……がは……」
"ズバアアアアン!!!!!!!!!!!!!"
そのまま、容赦無くナツミのスマッシュが男の顔面めがけて打ち落とされた。
「@あ………あ………」
完全に白目を剥いた男は、砂浜に頭から杭のようにして打ち込まれていった。
「ひ!ひいいいいいッ!化け物……た、助けて……」
完全に戦意を喪失した最後の男は、武器のナイフも放り投げて逃げ始めた。
「逃がすかァァァァァァァァァ!」
完全に武神と化したナツミは、夜空を跳ぶようなとてつもないスピードで男を追いかけていった。
「まあ……浮気だけは、絶対に厳禁ってことだよな………てゆーか、確実に死ぬし」
シンジは……なぜかごく普通の表情で呟いていた。
£
次の日、この砂浜で頭を残して全身を埋められ、瀕死の重傷を負った三人が発見された。
地元でも札付きの不良として知られていた三人だったが、発見当時は錯乱しており、
「悪魔が……鬼神が………襲ってきた……」
「女の姿をした……化け物が……」
「死ぬ………」
と、なにがあったのかさっぱり分らないことをうわごとのように繰り返していたという。
………当然、その犯人は発見されることはなかった。


END

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