作品名 |
作者名 |
カップリング |
「2×2+2あまり2」 |
郭泰源氏 |
シンジ×カオル |
「ばいば〜〜い、天野さん」
「ばいばい、石橋さん」
放課後、天野ミサキは友人と校舎を後にしようとしていた。
ただ……今日はこの後、ちょっとした用事で待ち合わせをしていた。
――学校近くのコンビニの雑誌コーナーで、その"待ち人"は立ち読みをしていた。
暇つぶしのつもりが、夢中になってしまったのか…ミサキがコンビニの前に来ても、気付くそぶりもない。
(まったく、相変わらずなんだから〜〜)
少々呆れながらも、恋人に会えたということには嬉しくなるミサキであった。
友人に直接マサヒコを紹介したことはまだないが、何度か写真を見せたことはあった。
彼女と一緒にコンビニに入ると、興味津々といった表情で初対面となるマサヒコの姿を探している。
「マサちゃん、ゴメンね、待った?」
「あ!わりい、ミサキ…もう学校あがりだったんだな」
「も〜〜う、立ち読みに夢中になっちゃったんでしょ?」
「ああ……ゴメン」
そう言って苦笑するマサヒコ。そして目敏く彼のことを見つけると、
友人がミサキの後ろからはしゃいだように言った。
「うわあ………ねえねえ、写真通りカッコイイんだね、ミサキのカレシ!!」
「そんなことないよ。これでニブチンだし、結構だらしないんだから。今日だって役に立つかどうか……」
「……初対面の人の前でいきなり俺の欠点を並べ立てるのはどうかと思うぞ」
再び苦笑するマサヒコだが、挨拶を忘れないあたりが彼らしいところで。
「あ、初めまして。いつもミサキがお世話に……」
柔らかい微笑みを彼女に向け、そう言った。
「初めまして!私、ミサキ……ちゃんのクラスメイトで、金城カオルです」
マサヒコと目線がほとんど変わらないくらいの長身にスレンダーな体躯。
いまどき珍しい、くっきりとした眉毛がちょっとボーイッシュな感じだがなかなかの美少女である。
「それじゃ、マサちゃん?駅の近くのモスで……」
「ああ、じゃあ行きますか?金城さん」
「はい!悪いけど今日はお願いします!」
三人は、連れだってモスへと向かった。
「………それで金城さんの気になってる人ってのは、友達のお兄さんなんだよね?」
ちょっと恥ずかしそうに……こくこく、とカオルが頷く。
「そうなの。カオルちゃんの友達の友達っていう関係で仲良くなった、カナミさんっていう人の
お兄さんなんだけど、そのカナミさんのお家に何度か遊びに行くうちに仲良くなったんだって」
「ふうん……で、そのシンジさんって人に付き合ってる人がいないってのは確かなんですね?」
「……一応、カナミにも確認したから大丈夫のはずなんだけど……」
ちょっと自信なさげに、カオルが呟く。
「なんでもね、シンジさんって本人は無意識らしいんだけど、
いっつも周りに女の子がいるタイプなんだって。……大変なんだよね、そういう男の人を好きになると」
少々棘のある目でマサヒコを見るミサキだが、マサヒコ本人はいたって脳天気なもので。
「うんうん、いるよな。そういう自分が羨ましいポジションにいるのに気付かない奴……あ痛てッ!」
顔はにこやかなままだが、テーブルの下でミサキが思いっきりマサヒコのつま先を踏んづけた。
「ま、まあそれはともかくさ。どうだろ?その妹のカナミさんって人に、
さりげなく協力をお願いしてみるとか?ホラ、将を射んと欲すればまず馬を射よ、って言うし」
「……それは私も考えたんだけど。実はその、カナミって子が……ブラコンっぽいっていうか」
「兄妹ふたり暮らしのせいか、ものすごいお兄ちゃんっ子らしいんだって。
それに、周りにいる子たちも多かれ少なかれシンジさんに気がある感じらしくて」
「セーフなのはショーコ……一番最初に友達になった子でカレシ持ちだから、
この子くらいなんだけど、どうもショーコだとからかわれて変な方向に行きそうで……」
(それって……)
(中村先生っぽいってこと?)
ミサキとマサヒコの頭の中に、ふたりの仲をとりもつ気だったのか、からかう気だったのか、
とにかく茶化しまくった某変態家庭教師の顔が浮かんでいた。
(それは確かに……)
(……相談しづらいよな)
顔を見合わせ、苦笑するふたり。
§
「とにかくさ、協力してくれそうな人がいないんだったら、いっぺんふたりっきりで会うなりして、
シンジさんの気持ちを確かめた方がいいんじゃない?」
「でも……そうすると今の、友達としてのシンジさんまで失っちゃいそうで……」
「気持ちは分るけどね。結局どっちかを選ぶしかないと俺は思うよ。
友達として良い関係を続けるか、それとも……自分の気持ちを素直にぶつけるか。
それを選ぶのは金城さん以外の人間にはできないんだし」
「もう!男の人はすぐそうやって話を済まそうとするけど、そんな簡単な話じゃないよ!
私、カオルちゃんの気持ちすごく良く分るもん。……自分の思いが通じればいいのに、
って毎日切ない気持ちになのに、でもみんなと一緒にいる時間も大切で……だから迷うんじゃない」
「……わかるよ、お前の気持ちは。でも、気付けなかった俺の言い訳じゃなく……
周りの人間をもし傷つけたとしても、自分の気持ちを言わなきゃ……伝わらない、って思うんだ」
「それは……そうだけど……」
「ねえ、ゴメン、私のせいでふたりがなんだかケンカしたみたいになって……」
相談をもちかけた当事者を完全においてけぼりにして、
白熱するミサキとマサヒコになぜか申し訳なさそうにカオルが言った。
「あ……ゴメンね、金城さん。なんだか俺らの言い合いみたいになっちゃって……」
「ゴメン、カオルちゃん……」
しょぼん、としてしまうミサキと、ちょっと気まずそうなマサヒコ。
場の雰囲気を変えようと、マサヒコがカオルに話しかけた。
「金城さん、で……シンジさんの写真とかあるかな?一応、イメージしといた方がいいと思うし」
「う、うん、今年みんなで一緒に海に行ったときの写真があるんで……」
ごそごそ、とカオルがカバンの中から写真を取り出した。
「へえ〜〜、シンジさんってカッコイイじゃない…背も高いみたいだし……」
その写真は、カナミたち一行にボディガードとしてシンジがついて行った、夏の日の写真だった。
「この人がカナミさんかあ……結構可愛いな、っ痛てッ!」
……小久保マサヒコ、意外に懲りない男である。
「でも……カオルちゃんが心配するの、わかるよ。
4人が4人ともタイプは違うけど、可愛い女の子ばっかりだし……」
(そう思うなら、蹴るなよ……)「き、金城さん、でもこのときはちょっと表情が固いね?」
「実は……このときが初めてだったんだ、シンジさんに会ったの……」
「あ………もしかしてカオルちゃん一目惚れだったとか?」
「そういうのとは……違うけど、でも……」
「でも?」
「私、初等部からあの学校で、お父さん以外の男の人と話すの苦手だったんだ。
シンジさんは、確かに最初少し緊張したんだけど……でも、すぐに大丈夫になって。
だから……ミサキの言うとおり、あの頃から私、シンジさんのことを好きだったのかも……」
「そうだよね。シンジさんに会ってから、カオルちゃん変わったもん。
前はほとんど男性恐怖症だったのに、最近は平気みたいだし。
今日もマサちゃんと普通に話せてるでしょ?前だったらガチガチになってたのに」
「ふうん……そうか、金城さんもしかして……初恋なんだ?」
「……………………………………………………う、うん」
初々しく、真っ赤になって頷くカオル。
「それを聞いちゃうと余計なおせっかいかもしれないけど、上手くいって欲しいって思っちゃうな。
う〜ん、どう、金城さん?やっぱり告白とかしてみない?」
「!」
「いや、聞いた限りだけど、シンジさんはもしも……もしもだけど、金城さん以外に好きな人がいても、
態度が変わったりする人じゃないと思うんだ。だから、試してみる価値はあるんじゃないかと……」
「マサちゃん……でも、カオルちゃんは………」
「う、ううん……分った。そうだよね、自分から言い出さないと……変わらないもんね……」
「カオルちゃん……いいの?」
「うん。ミサキだって、頑張ってマサヒコ君に告白したから……自分の想いを伝えたから、
今みたいに恋人同士になれたんだよね?私……シンジさんと、もっと一緒にいたい。
だって、このままもしシンジさんが卒業してどこかに行っちゃったりしたら、自然消滅になっちゃう。
そんなの……イヤだ。私……私……」
話しているうちに感極まってしまったのか、カオルは涙目になってしまっていた。
§
「大丈夫……大丈夫だよ、カオルちゃん。大丈夫……きっと上手くいくよ」
そんなカオルの手を、強く握りしめて励ますミサキ。
「ご、ゴメン……金城さん、俺……もしかして無神経なことを……」
「そうだよ、マサちゃん!無責任にカオルちゃんの初恋を……」
「いいの、ミサキ。私……マサヒコ君に感謝してる。背中を押された気持ち。
あの……もうひとつ、ふたりにお願いがあるんだけど……」
「う、ウン。なんでも協力するよ、金城さん……」
「……あのね……シンジさんに告白するときに……付き添いっていうか、
近くにいて欲しいんだ。くじけそうになったとき、励まして欲しいんだ」
「わかったよ、カオルちゃん。それくらいなら、全然大丈夫だよ!」
そして三人は、具体的な告白の場と時について話し合っていった。
都合の良いことに近々城島家でクリスマスパーティーがあり、カオルも招待されているらしい。
シンジにパーティーの準備について話があるとその場から携帯をかけて話し、
(緊張したカオルがとちらないかふたりはヒヤヒヤして聞いていた)
今週の土曜日にここのモスで会うことをなんとか約束できた。
「こんないきなりで良かったの?カオルちゃん……」
「いいんだ。自分を追い込まないと出来ない気がするから。あはは、あ、安心してよ、ミサキ。
こう見えても練習より試合で結果を出す、本番に強いタイプだって部でも有名なんだから……」
ぎこちなく話すカオルを見てむしろ不安になるふたりではあったが、
事ここに至っては彼女の言葉を信頼するしかなかった。
「……でもいい人だな、金城さんって」
「でしょ?マサちゃん」
帰路が反対方向となるカオルと別れ、電車を乗り継いで帰ると既に夕方だった。
ふたりはマサヒコの部屋でカオルの告白について話し合っていた。
「小学校からあの学校ってことはさ、結構お嬢様なんだろ?
その割に全然サバけてる感じだし、それに話しやすいし……上手くいって欲しいな、マジで」
「ウン……あのね、マサちゃん?ちょっとイヤなこと言っても良い?」
「?なんだ?」
「ウチの学校ね、付属の初等部上がりのコや中等部から上がったコって、『内部生』って呼ばれて、
マサちゃんの言うとおりお金持ちの家のコが多くて……結構ね、派手だしプライド高いコが多いの。
私みたいに公立中学から受験で入ったコは、成績が良いだけの……変な話だけど、
『進学率部隊』なんて内部では呼ばれてるんだ……」
「……なんかよく分らないけど、ひでえ話だな、ソレ」
「本当にね、ひどい話なの」
そう言って、ミサキは苦笑した。
「……そんなだから私、最初はなかなかあの学校に馴染めなかったんだけど……
カオルちゃんと友達になって、すごく救われたっていうか……ホラ、カオルちゃんも内部生なんだけど、
あのとおり裏表がなくて、誰とも仲良くなれて……だからみんなに好かれるんだよね。
本当の、友達なんだ。だから……カオルちゃんの初恋は、全力で応援したいの……」
「……大丈夫だよ、ミサキ」
ミサキの頭の上に手をのせ、安心させるように撫でまわすと、マサヒコが微笑んだ。
「ミサキにそんなに好かれて信頼されてる金城さんならさ、シンジさんもOKするに決まってるよ。
もしダメだったとしても……それはさ、金城さんにとってもマイナスじゃないと思う。
少なくとも、初恋をなにもせずに終わらすことにはならないんだから」
「……でもね、私も……カオルちゃんを見てると、思い出すの。
あの頃、マサちゃんの言葉や態度を気にしてばっかりで何もできなかった……私を」
「…………」
無言のまま、マサヒコがミサキを抱きしめた。
しばらくそうしてふたりは何も話さなかったが……やがて、マサヒコが口を開く。
「………ゴメンな、ミサキ。お前の思いに気づけなくて……不安にさせて……」
「マサちゃん……」
「でも、大丈夫だ。俺は……このままずっと、お前の隣にいる。絶対に離れない。
……金城さんとシンジさんも、そうなってくれると、いいな……」
§
そして当日、土曜日のモスバーガー。カオルは緊張しまくった表情で席についていた。
マサヒコ・ミサキはそのひとつ後ろの席で、いつでもサインを送ることの出来る状態でスタンバイしていた。
(小声で)「ねえ……マサちゃん、早く来過ぎちゃったかな?」
(小声で)「しょーがねーだろ、だって金城さん、まだ大丈夫って言っても聞かないんだから……」
まだシンジが来ていない以上、別に小声で話す必要はどこにもないのだが……
なぜか顔をつきあわせて話すふたり。それはそれで、仲の良い恋人同士の風景ではある。
そうこうしている内にシンジらしき男性が店内に姿を見せ、微笑みをカオルの方へ向けると手を振った。
(へええ……シンジさん、優しそう……写真やカオルちゃんの話どおりだ……)
(ふうん……やっぱり、良さそうな人だな……落ち着いた感じの……)
自分がマサヒコとミサキに品定めされているなどとは当然夢にも思わないシンジは、
カウンターで手短に注文するとカオルの前へと移動していった
「やあ、待った?カオルちゃん……」
「あ!しししししし、シンジさん!ど、どうも!!」
あからさまに噛みまくるカオル。しかし既に彼女のピュアっ娘ぶりに
慣れっこになってしまっていたシンジは、その様子を怪しむこともなく席に着いた。
「あはは……やっぱりまだ俺とふたりっきりだと抵抗ある?緊張しちゃう?」
「いいいい、いえ!!!そんなこともありましぇんッ!!!」
(落ち着いて、カオルちゃん、リラックス、リラックス〜〜〜)
後ろの席で、ミサキが両手を水平に小さく振ってカオルにアピールした。
ようやくその様子に気付いたカオルが、無言で何度も頷く。
「……?どうしたの、カオルちゃん?」
「い、いえ!なんでもないんです!」
「ふうん?……じゃ、パーティーの準備についてだけど……」
その後はシンジとカオルの確認作業が続いていった。
「うん、飾り付けはカナミとマナカちゃんがしてくれるから、
会場準備はアキちゃん、んで買い出しは俺とカオルちゃんだよね?」
「は、はいッ!」
ただ単に"ガタイが良いから"という、考えようによっては酷い理由で
力仕事要員に回されたカオルだが、今回はそれが幸いしたようである。
「で、買い物の場所は……近所のココ、シーレックスマートって考えてる。
結構量が多くなるだろうから、出来たらもうひとりくらい人手が………」
「しししししし、シンジさんッ!」
「?なに、カオルちゃん?」
(落ち着いて、カオルちゃん、いきなりすぎだよ、セーブ、セーブ)
カオルの勢いを抑えようと胸元を手で押えるジェスチャーを繰り返すミサキだったが、
動転しまくっていたカオルにはなぜかミサキのジェスチャーが、
競った試合展開の中での打て!打て!の指令に見えていた。……そして、打った。
「し、シンジさんは………あああ、アキと付き合ってるんですかッ!?」
「は?」
あまりの不意打ちに、ポカン、と口を開けカオルの顔を眺めるシンジ。
「だって……ふたり、いつも仲が良いし……そ、それにアキって結構可愛いし、胸もあるし……」
「………?いや、俺とアキちゃんは別にそんな仲じゃないよ?確かに一緒にいると楽しいけど……」
「……私は、どうですか?」
「え?」
「シンジさん、私といると……つまんないですか?」
「そんなことないよ。カオルちゃんも一緒にいると結構面白いよ。
ははは、多分自分では気付いてないかもだけど……」
悪気無く笑うシンジ。カオルのピュアっ娘ぶりはカナミやマナカやアキとはまた違う面白さがある、
その程度の意味のつもりだったのだが、カオルはシンジのセリフに完全に舞い上がってしまっていた。
「ななななな、なら、シンジひゃん!」
「?なに?」
「わわわわわ、私と………付き合って下さい!」
「……………え?」
「私の………彼氏になって下さい!」
店内に、突然の静寂が訪れた。
§
それまでのやりとり(なにせ緊張しまくっていたカオルの声が結構デカかったのだ)
でも店内の耳目を集めるのに十分だったのだが、さすがにこれだけ派手な告白である。
マサヒコやミサキ以外の客もあからさまに好奇の目でシンジとカオルを見ていた。
「…………えっと……カオルちゃん、それってなにかの罰ゲームとか余興じゃないよね?」
「ちちちち、ちがいまひゅ!」
「…………ゴメン、俺…」
「や、やっぱりダメなんですね。分りました。そうですよね、私みたいに背が高くてガリガリで、
胸もなくて女っぽくなくて可愛くない女じゃ、イヤですよね。う……ごめんなさい、ううう……」
目に涙を浮かべて席を立とうとするカオルだったが、シンジが慌ててその手をつかんだ。
「ちち、ちょっと待って!違うんだよ、カオルちゃん……」
「いいんです、シンジさん……もう、大丈夫、うッ、ですから……」
「あの……俺でいいの?って聞こうと思ったんだけど……」
「え?」
「……俺なんかで、いいの?カオルちゃん。もし、俺で良かったら……その、喜んで」
「!!!!!」
「?!?!かかかか、カオルちゃん?ちょ、ちょっと、カオルちゃん?」
「わ〜〜〜い、良かったね、おめでとう、カオルちゃん……アレ?」
大喜びでカオルのもとに駆けつけたミサキだったが、そこで彼女が見たものは―――
シンジの腕の中で、幸せそうな顔のまま気絶したカオルの姿であったという………
「ふふ、結構カオルちゃんも大胆だよね。告白の次の瞬間にはもうシンジさんに抱き付いていたんだから」
「だだだ、だからあ、あれは……その、不可抗力っていうか……」
「なるほど……天然を装った完全犯罪といったところですか」
「確かにおにいちゃん、天然っ子好きそうだもんな〜〜〜」
そして時は少々過ぎて冬休み……カオルとミサキは、城島家で冬休みの計画を練っていた。
いつの間にかミサキもカナミやマナカと仲良くなり、カオル+ミサキ+カナミ+マナカ+シンジ+マサヒコ、
の計6人でスキー旅行に行こうという話になっていたのであった。
「ショーコちゃんとアキちゃんは彼氏と遊びに行くんだって、いいな〜〜〜」
「全く……想像の世界でこそ、人は修練されるというのに……」
シンジとカオルが付き合うようになり、実は一時期落ち込んでいたアキだったが……
通学途中で会って、一目惚れされたという英稜高校の男子
―――この生徒が偶然マサヒコの友人だったため、話は急展開したのだが―――
に告白されて付き合うようになり、今ではラヴラヴ状態らしい。
よって、今回のスキーはマサヒコ&ミサキ、シンジ&カオルの2ペアに、
ひとりもの同士のマナカとカナミがくっついていくという形になっていた。
「まあまあ……それはともかく、ここのホテルで良いんだよね、カオルちゃん?」
「ウン、ここならおじさんが勤めてるから、家族割引で安くなるし……」
「うわあ……すごいよ、温泉もある。わ〜〜、湯煙お色気殺人事件だ〜〜」
「………勝手に殺人事件にしないで、カナミちゃん……」
「ふうむ……殺人事件は無しにしても、温泉で若い男女がくんずほぐれつの展開というのも……」
「………お願いだから、小説のネタ探しにするのは止めて、マナカちゃん……」
(どうにも……最近私、気苦労が多いんだけど……)
アキが欠けた今は、ミサキがこのグループの主なツッコミ役となっていた。
「でもミサキちゃんとカオルちゃんはやっぱり夜の部もあるんだよね〜〜、いいな〜〜。
なんならマナカちゃんと私もお手伝いを……」
「……要りません」
(はあああ……中学の頃、マサちゃんはこんな風だったのかな……)
今更ながら、自分の恋人をちょっぴり偉いと見直したりするミサキであった。
しかし、そんなエロトークを分っているのかいないのか……カオルは、ニコニコとしたままだ。
「………実は気になっていたんですが、カオルさん?」
「なに?マナカ?」
「カオルさん……シンジさんとは、どこまでいってるんですか?」
「?映画館や、レストランとか、買い物とかだけど?」
「………カオルさんのピュアっ娘ぶりからすれば、予想の範囲内の答えですが……ならば、キスは……」
「ええッ!だ、だってキスしたりしたら、子供できちゃうし………」
§
「しかしここまでとは………」
「思わなかったわね、あのエロ魔神のおにいちゃんが手を出してないなんて……」
「………あのねえ、カナミちゃん、マナカちゃん……」
もはや疲労困憊、といった表情のミサキ。
「ミサキさん?いかがです、今回は友人としてカオルさんを助けてあげては?」
「え?」
「ダメだよ!マナカちゃん、これはその場でのドッキリなんだから」
「ああ、そうですね。あまりにもじれったいのでつい……」
「………ふたりして、なにを………」
「お気になされずに。計画はこちらでみっちり練っています…………うふふ、お楽しみに………」
ぞくり、とするような怪しい笑みを浮かべるマナカとカナミ。
特大級の嫌な予感がしつつも、その不吉な笑顔になにも言えなくなるミサキであった―――
「ああ、カナミさん……ボードでスピードを殺すにはもっと腰を落とさないと……」
「や〜〜ん、こうですかぁ〜〜?」
そして数日後の某スキー場―――
そこでは、さとう珠緒もかくやとばかりにブリブリモードで嬌声をあげるカナミと、
彼女を優しく助け起こすマサヒコ、そして無言のまま闘気を出しながら、
ふたりを鬼の形相で見つめるミサキの姿があった。
「しかし……案外役者ですね、カナミちゃん……立派なものですわ……」
「ま、マナカちゃん……あれって……どういうこことぉ〜〜〜〜?」
「……落ち着いて下さい、ミサキさん。こめかみに青筋が浮かんでピクピク動くのが怖いです」
「………あのね、確かに私はシンジさんとカオルちゃんの仲をもう一歩進めるってことには同意したよ。
だけど、それでなんでカナミちゃんとマサちゃんがイチャイチャしなきゃならないわけ?」
「………嫉妬は愛情のスパイスと言います。これが後々ボディブローのようにじわじわと……」
「…………ストレートを顔面に喰らうみたいに今効いているわああああ!」
そんなふたりの姿はとりあえず置いておいて……シンジとカオルはごくごく健全にスキーを楽しんでいた。
「へええ……運動神経良いってのは知ってたけど、スキーもかなりの腕前なんだね、カオルちゃん」
「えへへ〜〜〜、ウチ、ちっちゃい頃から毎年10回くらいスキーに来てましたからね。
こう見えても結構得意なんですよ……でも、シンジさんも上手じゃないですか」
「あははは、でもカオルちゃんについていくのがやっとだよ………わッ、と!」
「あ……大丈夫ですか、シンジさん……きゃッ!」
コケかけたシンジを助けようとしたカオルだが、そのまま折り重なるようにして抱き付いてしまっていた。
「ご……ゴメン、カオルちゃん……」
「い、いえ……こちらこそ、シンジさん……」
頬を赤く染め、すぐに離れてしまうふたり。初々しい風景である。
(でも………もう少し、シンジさんに抱き付いていたかったかな………って、なに考えてるのよ、私!)
「あの……本当にゴメンね、カオルちゃん……」
「ひッ!ひええ!だ、大丈夫ですよ、シンジさん……」
(……悪いことしたかな……でも、カオルちゃん、可愛いな……)
そんなことを繰り返しながら、ふたりは楽しくスキーを続け……夕方が迫る頃、
他の4人と合流してホテルへの帰路へと着いた。しかしそこでカオルとシンジが目撃したのは――
「………マナカ、あの三人なにかあったの?」
「……いえ、なんと言いますか……愛情の掛け違いというのはこうも恐ろしいものかと……」
「うふふふ〜〜、じゃあ明日はあそこで滑ろうね、マサヒコ君?」
「良いですけど、もう今日みたいに何回もコケないで下さいよ?まったく……腰が痛いでしょう?」
「うん、いた〜〜〜い。だから後でたっぷりマッサージして、マサヒコ君!」
「………遠慮します」
「あ、照れてる〜〜〜可愛い〜〜マサヒコ君たら〜〜〜」
マサヒコにべったり状態のカナミ、そして終始無言だが闘気を隠せない……
いや、隠そうともしない、獰猛な獣と化したミサキの姿であった。
「コラ、カナミ……あんまりマサヒコ君を困らせるなよ……」
さすがにその場の雰囲気の険悪さに気付いたシンジが妹をなだめにかかるが、
「ふ――――んだ!おにいちゃんなんて、カオルちゃんとチョメチョメすることだけ考えてればいいんだから、
人の恋路の邪魔しないでよ!」
§
「あのなあ……大体チョメチョメってお前、古すぎ………」
「なら、ズッコンバッコン……」
「露骨過ぎるわああああああああ!」
………どうにもままならぬのであった。そんな会話を繰り返しながら、6人はホテルに着いた。
スキーウェアを着替え、男女に分かれるとマサヒコとシンジはそそくさと温泉へと向かった。
「ふう〜〜〜あったまりますね、シンジさん……」
「ああ……そうだね、あの……悪いね、マサヒコ君……」
「?なにがですか、シンジさん」
「いや……妹のカナミなんだけど……どうも、君が気に入ったって言うか……ミサキちゃんっていう、
可愛い彼女がいるのになんだかベタベタしてきちゃって……本当に、悪い」
「……シンジさんに謝られることじゃないですよ。俺が優柔不断なのも悪いんですし……」
「恥ずかしい話なんだけど、アイツが同年代の男の子に興味を持つのは珍しいんだよ。
だからさ……その、あまり邪険にもして欲しくないっていうか……でも、ミサキちゃんのご機嫌も……」
「………わかってますよ。なるべく傷つけないように……」
「悪いね、マサヒコ君……」
男と男が裸の会話を続け、ほのかな友情らしきものが芽生えてきた頃、隣の女湯では―――
(小声で)「でも、カナミちゃん、ちょっとやりすぎだったんじゃないですか?」
(小声で)「ふふ〜〜ん、マサヒコ君って可愛くてさ〜〜思わずノリノリになっちゃった〜〜。
マジでミサキちゃんからもらっちゃおうかしら〜〜」
そしてそんなふたりの後ろ姿を見つめているのは――もはや説明は不要だろう、
なぜか彼女の周りだけお湯が派手に沸騰しているような気がするのは……錯覚だ、絶対錯覚だ。
「………ねえミサキ?なんでそんな怒ってるの?」
「おこってなんか、な、い、わ、よ〜〜?」
さすがにカオルの目の前で怒りを爆発させるわけにもいかず、無理矢理に作り笑顔を向けるミサキだが、
その表情は、カオルのいつも見知ったミサキのそれではなく……ぶっちゃけ、ムチャクチャ怖かった。
「あのね、ミサキ?カナミって結構天然だから、あんまり気にしない方が……」
天然お嬢様系ピュアっ娘にこんなことを言われてしまうカナミもなんだが、
そんな言葉が今のミサキに入るはずもなく。
「……どうして……カナミちゃん、胸なら私と同じくらいなのに……ブツブツ……」
完全に、自己完結の危ない世界に入りつつあるミサキ。
首を左右に振って友人を正気に戻すのを諦めたカオルは、
とりあえずこの場では一番マトモそうなマナカのそばへと移動した。
「ねえ、マナカ……カナミに言っておいてよ。ミサキがちょっとご機嫌斜めなんだけど……」
「私もあまりやりすぎるなとは言っておいたんですが、予想以上にカナミさんがノリまくっていて……」
「?……やりすぎるな、って?」
「@%$、い、いえ、なんでもありません!」
慌てて口をつぐむマナカを、カオルは不思議そうに見つめた。
「それより……そろそろ上がりませんか?お腹も空きましたし……」
「?うん、そうね……」
(しかし……今回は、貧乳だらけの温泉天国でしたね……)
秘かに失礼なことを(まあ自分も含めてなので多少自虐的でもあるが)思ったマナカだが、
頭の中では作戦が着実に進みつつあることにほくそ笑むのであった―――
「いや〜〜〜、やっぱり女の子は長風呂だね〜〜」
「悪い、先にシンジさんとはじめちゃったけど……」
「ああ、別に良いんですよ、マサヒコ君……」
部屋に戻ると、既にマサヒコとシンジは酒が入り、顔を軽く赤くしていた。
無論、マサヒコにしてみればシラフで今のミサキと向き合いたくないという思惑も働いていたのだが。
「それじゃあ……マサちゃん、どうぞ?」
「あ、ありがとう、ミサキ………あ、あのさ、ミサキ?」
「なあに?ま・さ・ち・ゃ・ん?」
「………なんでもありましぇん……」
酔った勢いで謝ろうと思ったマサヒコだが……般若のようなミサキの笑顔を見て、
それが不可能だと悟った。黙々と、ミサキにつがれるままビールを飲み干すしかなかった。
§
そして宴も進み………
「は〜〜い、もういっぱりいこ〜〜〜、マサちゃん………」
「……あのなあ、ミサキ……もういい加減……」
「なによ、ワタシの酒が飲めない、っての?うぃっく。
そう……ならカナミちゃんのとこでもどこでも行けばいいじゃない……」
「………頂きます」
完全に酔っぱらい目がすわってしまったミサキを泣く泣く相手するマサヒコ。
「しかし……ミサキちゃん、あんな風になるんだね……」
「………私も初めて見るんですけど……」
傍目でみているシンジとカオルは気の毒そうにふたりを見ていた。一方、張本人のふたりは……
「いや〜〜、良い感じだね〜〜、マナカちゃん」
「そうですね……しかし、マサヒコ君ってお酒すごく強くありません?これは予想外かも……」
既にふたりの前にはビールの大瓶が7本、さらにお銚子も4本ほど空になっていた。
ミサキはビール瓶半分もいかないうちに早々と酔っぱらってしまったので、
ほぼマサヒコひとりで飲みほした計算となる。
「ふ〜〜〜む……でも、ミサキちゃんがあんなにベロベロなら、大丈夫じゃない?」
「ええ……心配なのは、ふたりっきりになったと同時にミサキさんが潰れてしまわないかだけですね……」
「………お前ら、さっきから何を話している?」
「?!あ、おにいちゃん?いや〜〜、あのふたり、仲いいな〜〜って思って。
おにいちゃんたちもあんな風に……」
「嘘つけ。………なんか企んでないだろうな、お前?」
「なな、なんのことかしら?」
長い付き合いだけあって、妹の性格を把握しているシンジは疑惑の目で見た。
「じゃあ、私カオルさんと話があるんで……兄妹おふたりでどうぞ……」
「ん?ああ、悪いね、マナカちゃん……」
「!!ひどいよ、マナカちゃん!おにいちゃんとふたりっきりにしないで―――!!犯される――!!」
「アホなことを叫ぶな!」
しかし、マナカの巧みなパスワークに気を取られ、彼女からマークを外したのはシンジの失敗だった。
「ささ、どうぞ……カオルさん……」
「でで、でも……お酒は二十歳になってからって……」
「お酒やたばこが良くないのは、成長ホルモンの分泌を妨げるからですよ。
私たちみたいにもう成長の見込めないくらいになれば大丈夫です!ささ、どうぞ……」
「そ、そうね……バスケの選手としてはもう少し身長が欲しいけど、
これ以上大きくなったらシンジさんと並んで歩くのもちょっと釣り合わないし……頂きます!」
「あらあら♪カオルさん、見事な飲みっぷり♪では、もういっぱいどうぞ♪」
「ううう、ウン。ぷはあ……ビールって、苦いだけで苦手だったけど……
体動かした後だと、結構美味しいね。甘酒やお屠蘇くらいしか飲んだことなかったけど……」
マナカの怪しげなトークに引っかかり、杯を重ねるカオル。
「れね、マナカ。ミサキちゃんに聞いて、ばすとあっぷたいそうやっれるんらけろ、
れんれん効果がないのよ〜〜〜、同じ貧乳として、わかるれしょう?この苦しみが……」
気付けば頬は赤く染まり、呂律も怪しくなってきていた。
(よし……準備はほぼ整いましたね……では……)
「シンジさん……すいません、カオルさんが……」
「?……あ!カオルちゃん!どうしたの、顔真っ赤……」
「あへへへへ〜〜〜、しんりさん、だいすき〜〜〜」
「%"'!¥+かかかか、カオルちゃん?」
心配して側に来たシンジに、いきなりカオルが抱き付いた。
普段のピュアっ娘ぶりは考えられない彼女の大胆な行動に、驚くシンジ。
「まままま、マナカちゃん……まさか、カオルちゃんに酒を……」
「ええ………思ったより、くいくい飲むものですから、てっきり平気かと……」
嘘である。あらかじめカオルの酒の弱さをしっかりリサーチ済みの上での行動である。
「あ〜〜〜いいら〜〜、カオルちゃん〜〜〜、ならわらしも……えい!!!!」
「'&'W〜!!U#{}〜Fみみみ、ミサキ!!!」
同じく、ミサキもマサヒコの胸の中に飛び込んだ。
――部屋の中は、二組の恋人同士がじゃれあう……なんとも濃密な空間となった。
§
「うふふふ〜〜意外に筋肉質なんれしゅれ〜〜〜、シンジさん……」
「マサちゃん……気持ち良いよ……大好き〜〜マサちゃん」
「……どうやら、お邪魔のようですね、カナミさん」
「そうだね〜〜、マナカちゃん」
そんな両ペアを冷たく一瞥すると、マナカナコンビはそそくさと席を立った。
「ちちちち、ちょっと待て!カナミ!お前らどこへ……」
「お邪魔者は退散しま〜〜す。これからマナカちゃんともう一回温泉にでも……」
「待って下さい!マナカさん!俺たちをこの状態で見捨てるのは……」
「一応申し上げておきますがこの部屋は私たちの部屋ですので……続きをなさるなら、
自分たちの部屋でどうぞ。そのご様子ですとこの部屋の後かたづけは無理でしょうから、
そちらについては私とカナミちゃんにお任せ下さい。では……」
普段の無感情な表情を一層押し殺し、冷たく言い放つマナカ。
シンジとマサヒコはそれ以上なにも言えず、ただふたりが部屋を後にするのを見つめるしかなかった。
「………」
「………」
無言のまま、見つめ合うマサヒコとシンジ。
「むふふふ〜〜、続きは隣の部屋れしゅよ、しんりさん……」
「今日は寝かさないかられ〜〜〜、マサちゃん……」
(これはもう………)
(仕方ないですね………)
似たもの同士、相通ずるものがあるというのか……アイコンタクトをかわすと、
ふたりは無言で頷きあい、それぞれの恋人を抱きかかえて移動していった。
「あのなあ……ミサキ、だから……」
「………なにかいいわけがあるろ〜〜?う、浮気者のくせに……」
「だから、カナミさんとはそういうんじゃ……」
「『お前の隣にいる。絶対に離れない』とか言っておいれ……ちょっと可愛い女の子が現れると、
すぐにデレデレして鼻の下伸ばして……むかしっからそうじゃない。
若田部さんとも、リンちゃんとも、アイ先生とも!」
「………それは、違うって……」
既に布団が敷いてあったマサヒコ×ミサキ部屋では、正に修羅場が繰り広げられていた。
「………いいよ、マサちゃん……なら、私が……忘れさせてあげる……」
「だから忘れるも忘れないも……#▲〒!!!!!!!!!!!!!えええ?」
するすると、布団の上で浴衣の帯をほどくと……ミサキは、下着をつけていなかった。
―――全裸、だった。
「………しよ、マサちゃん……」
「ちょっと待て、なんでいきなりそういう流れに……」
「もう……私のカラダに飽きた?マサちゃん……」
「だから、違うって。そういうんじゃなくて……」
「あのね……マサちゃん?バストアップ体操だと全然おっきくならなかったんだけど……
マサちゃんとね、セックスして、触られたり、揉まれたり、舐められたりするようになって……
私、少しおっぱいおっきくなったんだよ……ほら……」
「………(ごくり)」
マサヒコは無言のまま唾を飲み込んだ。
確かに……ミサキのそこは、明らかに中学生の頃よりヴォリュームを増していた。
少女から、女としての肉体に近づき、花開きつつあった。
「だから……お願い……しよ、マサちゃん……」
「で、でも……今日は俺、ゴムも持ってきてなかったし」
「大丈夫……私、持ってきてるから……ほら……」
「!!!ぐ……お前……いつの間に……で、でもさ。
と、隣のシンジさんと金城さんの部屋に聞こえるかもだし……」
「うふ……いいじゃない……聞かせてあげようよ、マサちゃん……」
「!!∋!∇P√みみ、ミサキ?」
「多分あのふたり……まだ、したことないよ……だからさ、マサちゃん?」
マサヒコは、ミサキに見つめられ……背筋がぞくり、とするのを感じた。
§
幼馴染みとして、恋人として――今まで長年付き合ってきた少女が、
初めて見せる表情だった。蕩けるほどに美しく、魂が抜かれるほどに妖艶な微笑みだった。
「思いっきりセックスして……聞かせてあげようよ……うふふうふふ……」
「…………だ、ダメだって……ミサキ、ちょっと正気にもど……うわ!」
妖しい笑顔を浮かべたまま、ミサキがマサヒコに覆い被さってきた。
酔ったためか、興奮のためか、湯上がりのためか……ミサキの肌は、灼けそうなほどに熱かった。
「好き……マサちゃん……世界で……誰より、すきぃ……」
"ちゅ……"
ミサキの小さな唇がマサヒコの唇を塞ぐ。
「…………」
もう諦めたのか……マサヒコは、ミサキのなすがままになっていた。
"ちゅ……ぷちゅ"
ミサキは齧り付くように……貪るように、唇を重ねた。
キスをしながら蹴散らすような勢いでマサヒコの浴衣を脱がすと、そこは既に固く屹立しはじめていた。
「うふ……なんだかんだ言って、マサちゃんだって……ほら、こんなになってる……」
「あのなあ……こんだけされりゃあ、普通男は……」
「コレは、私のもの……誰にも渡さない……
カナミちゃんにも、若田部さんにも、リンちゃんにも、アイ先生にも……絶対、誰にも渡さない……」
そんな言葉を呪文のように繰り返しながら、マサヒコの下着をミサキが剥いでいく。
"ちゅ……"
「あ……ミサキ……」
露わになったマサヒコのペニスを愛おしそうに口づけし、マサヒコが一言呟く。
「好き……マサちゃんが、好き……マサちゃんの、カラダが、好き……
マサちゃんの、おちんちんが、好き……」
"ちゅッ、ぷちゅッ、くちゅッ……"
マサヒコのペニスを祈るように……両手で挟みながら、ミサキは含み続け舐め続け吸い続ける。
固さを増してきたそれをしゃぶり続けながら袋に手を伸ばして揉むと、
「んあっ……」
マサヒコが少女のように愛らしい声を上げ、身を捩った。
"ちゅ……ちゅく、つっぷ"
カリの部分に唇を密着させ、亀頭をくわえたまま舐め回す。竿の筋に沿って舐め上げる。
風呂上がりとはいえ、アルコールの入ったマサヒコの体からは生々しい匂いが放たれていたが、
それすらもミサキは愛おしかった。そのまま恍惚の表情でマサヒコのペニスを貪り続ける。
"ちゅ……くぅッ……"
そして肉棒を深くくわえこみ、喉の奥で締め付けたとき……
「ダメだよ……もう、俺……ギリ……ミサキ……」
マサヒコの情けない声がして、ミサキはひくひくと小さく脈打つペニスから名残惜しそうに口を離した。
ポーチの中から小さな正方形の包みを探し当てるとそれを破り、
コンドームを取り出してマサヒコのペニスに装着した。
そしてマサヒコに跨ると――そのまま前戯も無く、自分の膣の中へそれを挿入させた。
「あ……ああ……ミサキ………」
既にぐっしょりと濡れていたミサキの中はするり、とマサヒコのペニスを呑み込んだ。
「ん……う……んんう……マサちゃん……マサちゃん……」
全裸のまま、ミサキが騎乗位で腰を振り立てる。
"くちゅッ、むちゅッ、ぐしゅッ"
微かに淫らな水音がふたりの結合部から漏れる。亀頭が子宮を擦り上げ、
ミサキの愛液でぐしょぐしょに濡れたペニスの付け根が幾度も幾度も彼女の肉の芽をさすった。
「あ……ああ……いい……いい……ミサキ……」
「あん……すごい……いいのぉ……マサちゃん……」
お互いに、言葉にならない言葉しか口にできなかった。
快感で体が崩れ落ちそうになるのをミサキは必死で耐える。
控えめに揺れる小さな乳房に、マサヒコの指が這い回る。乳首を強く摘む。
「あッ……うッ……ぐッ……」
ミサキの頭の中が真っ白になり、熱い吐息が漏れ、呻き声が口の中にこもる。
痛みと快楽に我慢できず、マサヒコに抱きついた。マサヒコのペニスの形を記憶させるかのように……
§
膣口でくわえこむように、ねっとりとペニスを抜き差しする。しがみついた格好のまま、啜り泣く。
「好き……好きなの……お願い……マサちゃん……好き……」
そして腰の動きを止めると、膣を思いっきり引き絞った。
「あ……ああ……好き……俺も、好きだ……ミサキ……」
マサヒコは、自分のペニスがミサキの中で引っ張られ、埋め込まれ、溶けるような幻覚を見る。
ミサキの全身が、魂が、カラダが……ぎゅうっ、と自分のペニスに張り付くような錯覚を。
「あ……ああ……」
「ん……んくぅ……あッ……きゃく……」
ふたりの口から、快楽の熱い喘ぎ声があふれ出す。
マサヒコが両腕で、ミサキのちんまりとした真っ白なお尻を抱え込むと、
子宮を貫くかのような勢いでペニスを突き上げた。
"ぐじゅッ、ずるッ、ぬるッ"
「あ……いい……あッ……マサちゃん……マサちゃん……私…」
目を閉じ、半開きになったミサキの口の中に、ちゅるり、とマサヒコの舌が侵入してくる。
「ふぁああ……」
ミサキがマサヒコの口の中に恍惚の吐息を吹き込む。
「いく……私……いく マサちゃん…… 」
ミサキの中が痙攣を始め、ほぼ同時にマサヒコのペニスが膨れあがり、
どくどくと脈打って蠢動する音を――ふたりは、確かに、聞いた。
"ぷッ……ぴゅッ、どぷっ……"
「好き……マサちゃん……あなたが、好き……」
"ちゅ……ちゅ……"
ミサキはまだ射精の終わらない、マサヒコのペニスを自分の中から離さぬまま……
舐め回すように、マサヒコの顔面をくまなくキスした。
「俺も……好きだよ……ミサキ……」
そしてマサヒコも……充足の声をあげ、そのキスに答えた。
"くちゅ……ちゅ……"
部屋の中に、ふたりが舌を絡め、吸い、唾液を飲みあう音が響いていた。
§
「うふへはは、しんりさ〜〜〜ん」
「ゴメン、カオルちゃん、ちょっと待って……」
しなだれかかってくるカオルをいったん布団の上に落ち着かせると、シンジはくまなく部屋の中を探った。
(電源タップに偽装して小型盗聴器をしかけたか?それとも掛け軸の裏に小型カメラか?
……どこだ、どこにしかけやがった、カナミ……)
「……しんりさん?なにをしてるんれしゅか?」
「いや、ゴメンねカオルちゃん……まだ見つかんねえ、クソ、どこだ……どこにしかけた……」
カナミが盗聴器・小型カメラの類を部屋内に仕込んだと微塵も疑わずに探し続けるシンジ。
………しかし、つくづくどういう兄妹だ。カオルはそんな彼の様子を不思議そうに見つめている。
「ん!ここか!」
そしてシンジはテーブルの下になにか紙らしきものが張ってあるのを発見した。
「はははは、俺の目をごまかせると思ったか、あめーんだよ……ん?」
そこには、カナミの丸っこい文字とは明らかに異なる端正な文字が並んでいた。
シンジさんへ
これを読まれているのはお部屋の中の探索がひととおり終わった頃だと思います。
ご安心下さい。カナミちゃんの仕掛けた器具は全て私が取り外し、
隣の隣の部屋(中年の夫婦らしき二人組でした)に仕掛け直しておきました。
おふたりの邪魔をするつもりはありませんので、心おきなくカオルさんと愛し合って下さい。
一応断っておきますが、カオルさんも私の大切な友達ですので、
いきなり危険なプレイをしたら許しませんよ?大切にしてあげて下さい。
マナカ
(ありがとう、マナカちゃん。なんて良いコなんだ………)
マナカの気遣いに、心の底から感謝するシンジ。
見知らぬ人の部屋に盗聴器を仕掛け直す時点で(まあ見知った人の部屋でもだが)
十分に犯罪である。感動している場合ではない。シンジも少々感覚が麻痺しつつあるようだ。
(ん……裏にまだなにか書いてある?)
P.S.
枕元に例のものはおいてありますので、避妊についてもご安心下さい。お礼は結構ですが、
できましたら事後報告等して頂けると私の創作活動の一助となりますのでお願いします。
マナカより愛をこめて
(………やっぱ微妙)
気がききすぎるのも考えものだと思うシンジであった。
「しんじさ〜〜ん………」
「ああ………ご、ゴメンね、カオルちゃん……」
改めて自分の恋人に向き直るシンジ。酔いのためか頬は赤く染まり、
唇も蛍光灯の光に反射して、いつになくぷっくりと扇情的に光っていた。
(うわ………だけどこうしてみる見ると……やっぱりカオルちゃんってキレイなコなんだな……)
デートのときでも女のコっぽい格好をあまりせず、ジーンズ等のラフな服装の多いカオルだが、
しどけなく裾の乱れた浴衣姿というエロティックな姿をすればさすがに女のコらしかった。
シンジは魅入られたように自分の恋人の整った顔立ちを見つめていた。
「……?シンジさん、あの…………そんな風にまじまじと見られると……」
「……いや、カオルちゃんって……やっぱりキレイなコだなあ、って思って……」
「!……やだ、からかわないで下さい……恥ずかしい……」
アルコールで赤くなった顔をさらにリンゴのように赤くしてしまうカオル。
(う……カオルちゃん赤くなってる………可愛い……ああ、キスしてえ〜〜〜)
健全なる青少年ならば当然の欲望にかられたシンジは、カオルの側に体を寄せた。
「からかってなんて、ないよ。マジで……すっげえ可愛いくて、キレイだ。カオルちゃん……」
§
「シンジさん………」
見つめ合うふたり。ゆっくりと、シンジがカオルの肩に手を回し……
彼女を抱き寄せて唇を近づけるが………
「あの……ダメですよ、シンジさん……」
「嫌?カオルちゃん、俺とキスするの……」
「嫌じゃないです。私もしたいですけど……その、子供ができちゃうし……」
「……………………………………………………………………………………………へ?」
「だって……キスをすると、赤ちゃんできちゃうんでしょう?」
(………ギャグ?)
一応笑ってあげようとカオルを見るシンジだが、
彼女があまりに心配そうな、真剣な表情なので笑うに笑えなくなった。
(カオルちゃんが……その、純朴な女の子だってのは俺も分ってるつもりだけど……)
初めて自分と会ったときもガチガチに緊張していたし、おまけにカオルが小学校から女子校育ちという、
超純粋培養少女だったという事実をシンジは思い出してた。
「え………っと、カオルちゃん?変な話してもいい?」
「?なんですか、シンジさん?」
「カオルちゃん、おしべとめしべって理科とか生物で習った?」
「……?はい。受粉とか、そういう話ですよね?」
「人間の男と女にも当然そういうのがあるんだけど、もしかしてカオルちゃんそれがキスだって思ってる?」
「?違うんですか?」
「あのね、その……セックスって、知ってる?」
「?英語で性別のコトですよね?パスポートで書いてある……」
(あちゃあ〜〜〜こりゃ、ホンマモンだ……)
さすがにカオルがここまでのピュアっ娘だとは思っていなかったシンジは驚くよりも落胆した。
この調子では、折角のマナカの心尽しの品も無駄になってしまいそうだ。
「んあっ……」
――――しかし、シンジが諦めかけた正にその瞬間――――
カオルとシンジは、隣の部屋からマサヒコのものらしい、呻き声を聞いた。
「?」
怪訝そうな顔をするカオル。
「!」
(って?ままままままままま、まさか……マサヒコ君?)
一方のシンジはあらぬ想像をして内心慌てた。いや、それは想像では無く―――現実だった。
「あ……ああ……ミサキ………」
「ん……う……んんう……マサちゃん……マサちゃん……」
「あ……ああ……いい……いい……ミサキ……」
「あん……すごい……いいのぉ……マサちゃん……」
「あッ……うッ……ぐッ……」
引き続き壁の向こうからは明らかにセックスをしていると思しき、
マサヒコとミサキの艶やかな喘ぎ声が漏れてきていた。
"ごくり"
シンジは思わず唾を飲み込んだ。唇が乾き、じっとりと手のひらが汗ばむのを感じていた。
(マサヒコ君……あんな真面目そうで、普通っぽいのに……
そ、それに……ミサキちゃん……あんな、清純そうで可愛いコが……こんな声を)
隣の部屋で繰り広げられているであろうマサヒコとミサキのふたりの痴態で、
もはや頭の中はいっぱいになってしまうシンジだが、
ふと横を見るとカオルは不思議そうな表情のまま固まってしまっていた。
「シンジさん……?ミサキとマサヒコ君、なにをしてるんですか?」
「な、なにって……」
さすがに返答に困るシンジだが、隣の部屋でなにが行われているかさっぱり分らない、
という表情のカオルを見ているうち、心の中にイタズラ心がムクムクと
……いや、ムラムラと、と言った方が正確かもしれないが……湧いてきてしまっていた。
「あのね、カオルちゃん?さっきの話の続きだけど……男と女は、キスじゃ受粉しないんだよ」
「?……え!ほほ、ホントですか!」
§
「ああ。こう見えても生物は学校でも10番台だからね、間違いないよ」
さりげなくとんでもない嘘をつくシンジだが、カオルは素直に信じてしまっているようである。
「じゃじゃ、じゃあ?どうすれば受粉……っていうか、赤ちゃんができるんですか?」
「正確には受粉じゃなくて受胎だけどね。それが英語でセックス、
日本語だと……まあ、性交とか呼ばれるものなんだ。だから、キスじゃ子供はできないんだよ」
「そうなんですか……初めて知りました……」
ぱちくりと瞬き、シンジのことを感心したように見るカオル。
「だから………いいかい?カオルちゃん」
再びシンジがカオルを抱き寄せると、至近距離まで顔を近づけた。
「え……あの……でも……」
「好きだよ、カオルちゃん………」
"ちゅ……"
まだためらっているカオルだったが、シンジは少し強引に唇を重ねた。
カオルの薄く形の良い唇は触れていてもふわりとした感触で、心地よかった。
(あ…………)
突然の展開に驚き、体を固くするカオルだが―――――
(これが、キス……。本当は、甘くないんだ……)
幼い頃から乙女チックに思い描いてきたキスという行為に素朴な感想を抱きながら、
シンジの為すがまま…………それを受け入れた。
"ぷちゅ……"
しばらくして、唇を離すシンジ。カオルはポ―――ッと顔を赤らめ、とろりとした目でシンジを見ている。
「…………しんりさん……」
(うわ……やべえって、カオルちゃん……可愛すぎるよ……)
もはや止まらなくなったシンジは、カオルの両頬をそっと撫でた。
「あ……ん……シンジさん……」
そしてそんな小さな愛撫にも敏感に反応するカオル。
「カオルちゃん……じゃあ、次は大人のキスしようか?」
「……大人の、キスですか?」
「うん。いいだろ?恋人になってまだ一ヶ月だけど、俺……本当にカオルちゃんが、好きだよ。
だから……もっと、カオルちゃんのことを好きになって、可愛がってあげたいんだ。
それにさ、カオルちゃんだっていつまでもピュアだとかお嬢様だとか言われたくないだろ?」
「は、はい……お願いします、シンジさん……」
「…………じゃあ」
"ちゅ……"
再び、唇を重ねるシンジ。そして―――
"ちゅる……"
カオルの口の中へと、舌先を入れていった。一瞬驚き、びくん、と体を震わせたカオルだったが、
やがて覚悟を決めたように………顔を赤くして、シンジの舌の侵入を許した。
"ちゅ……くち、ぷりゅ……"
シンジの舌が、ゆるやかにカオルの口内を動き回る。差し込まれた舌の感触に戸惑うカオルだが、
やがて遠慮がちにシンジと舌を絡めあう。シンジは唾液を混じり合わせては舌を吸ってくねらせる。
最初は抵抗しようとさえ思っていたカオルだが、舌を吸われている内にそんな気持ちも失せた。
(シンジさん………)
いや、むしろいつまでもそうしていたくなってきていた。
気がつくと、からだ中がいままでに経験したことのない熱を帯びていた。しばらくして、シンジが唇を離す。
永遠とも感じられたそれが終わった瞬間、なぜかカオルは物足りない気持ちさえ抱いていた。
「……カオルちゃん?」
「は、はい……シンジさん」
「どうだった?大人のキス……」
「………わからないです……」
「ゴメン、良くなかった?」
「!ち、違うんです……その、頭の中が真っ白になっちゃって……わからないんです、私」
「気持ち悪くは無かったんだ?良かった……」
「は、はい。多分……すごく気持ち良かったんだと思うんですけど……
私、そういうの良く分らなくて……」
§
「ねえ?カオルちゃん……もっと、大人のこと、してみない?」
「?……どんなことですか?」
「さっきのキスで気持ち良かったんなら、大丈夫だよ。………いいかな?」
「…………は、はい」
するり、とシンジの右手がカオルの懐にさしのべられた。
「!!!ちょ、ちょっとシンジさ……」
驚いて大きな声を出しかけるカオルだが、シンジはそのまま彼女の唇を塞いだ。
(ブラ、してないんだ、カオルちゃん……)
本人も気にしているようなのはシンジも気付いていた。
確かに自分の手のひらからも、小振りで、固い感触は伝わってきた。
「あ……ふぁん……らめ……しんりさん……」
恥ずかしさから、抗議の声を上げるも……その愛撫に応えてしまうカオル。
(巨乳より貧乳の方が感度が良いって……本当なのかな?)
そんな俗説をなぜか頭の隅で思い出すシンジだが、
目の前の恋人の可愛らしい姿には思いっきり興奮してしまっていた。
ゆっくりと浴衣の襟元を開き、カオルの裸の胸を露わにする。
「や……いや……お願い……見ないで。シンジさん……」
弱々しく両手を合わせて胸を隠そうとするカオルだが、シンジは強引にその手を引き剥がす。
生まれて初めて父親以外の男の目の前に晒される、カオルの裸の胸。
柔らかさよりもまだ固さを感じさせる薄い胸板だが、
その先端には小さな花の蕾のように愛らしい乳首がのっていた。
日に焼けたことのない肌がかすかに汗ばんで蛍光灯のもとで光る。
シンジは、大切なものを扱うようにゆっくりとこねまわした。
「ふ………あ……はぁ―――ッ」
「あ……ああ……」
ふたりの息が、切れ切れに乱れる。
"くに……"
「あ!きゃん!」
乳首を摘まれ、カオルの口からは思わず艶めかしい声が漏れた。
「かわいいよ……カオルちゃん……」
"ぷちゅ……"
シンジがそのままカオルの乳首を舐める。
「あ……ああぁッ!」
カオルは舐められて身がよじれるほど辛くなってきていた。うっすらと、涙が滲んできた。
やがてシンジの手が、カオルの浴衣の下部からショーツへと……潜り込んできた。
「!ダメ!そこだけは……絶対ダメえ!シンジさん……お願い……」
必死で抵抗するカオルだが、シンジは無理矢理その中へと手を突っ込んだ。
"す……ふにゅ"
(?…………え?えええ?)
しかしシンジは自分の手のひらの感触に一瞬疑問を抱き、次に驚いてしまっていた。
(?……生えて……ない?え?毛が、無い?)
そこにあるべき、ものがなかった。ふにり、と柔肉の感触のみが……シンジの手先に触れてきた。
「う……うう、だから……だからダメって言ったのに……シンジさんのバカ……」
そんな彼の表情に気付いたカオルの目に涙が浮かび、零れた。
「!!?あ、そんな……ゴメン、カオルちゃん」
「う……ひっく、私、全然生えてこなくて………修学旅行とか、ううッ、
今日みたいにみんなでお風呂に入るときとかは恥ずかしいからずっと隠してたのに……
それなのに……う、うわあああああん……」
本格的に泣き出してしまうカオルを、シンジはしばし呆然と見つめていた。
だがしばらくして自分を取り戻すと、ぎゅっ、と彼女を抱きしめた。
「?シンジさん……」
「恥ずかしいの?カオルちゃん……」
「だって……みんな、生えてるのに……私は……いつまでたっても……」
「大丈夫……カオルちゃん。そういう女の人もね、たまにいるんだって。
それは生まれつきのもので、全然異常とかじゃない。むしろキレイなんだよ」
§
「………キレイって?」
「毛があることで、排泄物とか汚れとかが付着しちゃうことがあるんだよね。
だから毛が無いってことは、動物からより人間へと進化したって言えるくらいなんだ。
アメリカやヨーロッパでは、そうした人が最近多くなっているくらいだよ。
『ニュートウ』って言う科学雑誌で最近そういう学説が発表されたくらいだし、
学校でも科学5位内の俺が言うんだから、間違い無いって」
いつの間にか科目が違い、順位も上がっている。胡散臭い嘘をつくシンジだが、
「………本当ですか、シンジさん?」
相手は筋金入りのピュアっ娘・カオルである。あっさりと、その嘘を信じてしまっていた。
「だからね……カオルちゃん?俺がもっと……キレイにしてあげるよ」
「え?」
「俺と一緒に立って……後ろを向いて、カオルちゃん」
「………はい」
魔法にかかったように……大人しく、シンジの言うことを聞くカオル。
先に立ったシンジに手を取られると、その言葉通り背中をシンジに向けた。
「カオルちゃん……可愛いよ、すごく」
"する…………"
ゆっくりと、後ろからカオルの浴衣をずらし、それを脱がしていった。
普段運動しているからだろう、無駄な贅肉のない、しなやかな背中がシンジの目の前にあらわれた。
"ちゅ……"
「あ……あふぁんッ!」
シンジがカオルの肩にキスをする。ゆっくり、ゆっくりとカオルの帯をほどいていくと、
やがて彼女はショーツ一枚の姿になった。
"ちゅっ、ちゅう〜〜〜〜ちゅッ"
「あ……いや……ダメ………はぁ―――んッ、ふぁ……」
シンジの舌が、カオルの肩から背中から腰まで這い回る。
「!きゃ………あ!あふぁッ……」
シンジはいったん跪き、野生の羚羊のように引き締まったカオルの太腿の周りを、
円を描くように何度も何度も―――執拗なくらい、舐め続けた。
そして舌の這う感触を感じるたびにカオルは女の声を上げる。
"くッ……"
シンジの手が、カオルのショーツに触れた。
「あ……ダメ、シンジさん……」
「大丈夫……俺に、任せて……」
ゆっくりと、カオルのショーツを下ろす。染み一つない、白くまん丸なカオルのお尻が露わになる。
"ちゅ……れろ〜〜〜〜"
シンジの舌が、カオルのヒップラインを沿うように這う。
「あ……ああ……ん……だ、め…くぁ……」
未知の快楽に、抵抗の言葉を口にしながらやがてカオルは溺れていった。
「少し……脚を広げて、カオルちゃん……」
「でも……」
「もっと気持ち良くしてあげる……いいだろ?」
(あ……ダメ、私……もう……ダメ)
シンジの言葉に抵抗できなくなくなったカオルは、ゆっくりと太腿を開いた。
"くッ……"
そしてシンジが両のお尻の肉を開くと、そこからは可愛らしい花弁が顔を出した。
陰毛が無いためか、やや肉厚のふっくらしたそこからは既に愛液の跡が光っていた。
"くち……"
「あ…………」
シンジが人差し指を、その中に挿れる。しっとりと濡れて……熱かった。
「痛くない?カオルちゃん」
「少しだけ………」
「ゴメンね、でももう少し……我慢してね」
"くちゅ……くちゅ、ちゅる"
指でこねるように、後ろからカオルの中をかき混ぜるシンジ。とろり、と熱い液が溢れて漏れる。
§
(匂いがするな………ちょっと酸っぱいような、匂い?でも……嫌じゃないな、なんでだろう)
カオルの中の香りにさらに気持ちが昂ぶってきたシンジは、
一番敏感な肉の芽の付近にもう一本の指を伸ばす。
「!あ……ダメ、そこ……やん、くすぐったい……」
熟れた果物から弾け出る汁のような液が、ぬるり、とさらに漏れてきて指先でぬめる。
"ちゅる"
「?ふぁッ!???あ!シンジさん……そんなの、いや……」
シンジが指を引き抜き、後ろから舌をカオルの花弁に侵入させた。
さすがに腰を引いて逃げようとするカオルだが、シンジはがっちりと彼女の腰をつかんで離そうとしない。
「キレイだよ……それに、美味しい……カオルちゃんの、あそこ……」
"ちゅ……ずる、じゅる"
「あ……ダメ……うあ……くあ」
なま暖かく湿ったそれが自分の中に滑るような感触。カオルは甘い刺激に思わず呻く。
舌先だけでなく、口いっぱいに頬張られているような錯覚。
シンジが自分の中心を味わい、歓ぶ感情が伝わってくる。
やがて―――カオルの体からも、今までに感じたことのない悦びがこみ上げてきた。
潤う。
熱くなる。
漏れる。
溢れる。
濡れる。
蕩ける。
シンジの舌で自分の中心を蹂躙されながら、
カオルは自分の肉体がまるでそこだけになったような………そんな思いを抱いた。
「カオルちゃん……気持ちいい?」
こくり、とカオルが頷きかえす。
「次は……ちょっと、痛いかもしれないけど……我慢してくれる?カオルちゃん」
「はい……」
カオルをうつぶせに寝かせると、シンジはマナカが枕元に用意してくれていたコンドームを取り出した。
童貞君ゆえ、先に空気が入ったりと少々手間取ったものの、なんとか装着を終える。
「カオルちゃん………」
全裸になったシンジが後ろから、重さをかけないよう……カオルに覆い被さる。
「シンジさん………あ………」
そして勃起しきった自分のペニスを、カオルのお尻に押しつけた。
(あ………私のお尻に、固いのが……)
肌から直に伝わる、固いシンジの感触にカオルは震えた。
そのままシンジが体を起こし、カオルの腰も軽く浮かせる。
ペニスの先をカオルの花弁につけると、ゆっくりとペニスをカオルの中に沈めていった。
"ずぅ……ぐじゅッ……"
「!!!!あッ!!あああッ」
自分の中に生まれて初めて侵入してくる異物の感触に、悲痛な叫び声を上げるカオル。
「痛い?カオルちゃん……」
「あ……痛い……です……」
「ゴメンね……でも……このままでいれば……多分、痛くなくなるから……我慢して」
入り口に先端だけを入れたまま……シンジは、カオル首筋を沿ってキスをして、舌を這わせる。
"ちゅ〜〜〜〜、ちゅ"
そして手をカオルの胸に伸ばし、小さな乳房をほぐすように揉む。固くしこり始めた乳首を、こねる。
"くに………くに"
「あ………ふぁ……シンジさん……ああ……」
まだ痛みが去ったわけではないが、カオルはそれと同時にシンジの愛撫にも感じてしまっていた。
「もう少し……いくよ、カオルちゃん……」
"ずる………ぬるぅ〜〜……ずぷッ"
少しずつ、少しずつ……シンジがカオルの中を優しくこじ開けるように、じりじりと分け入ってくる。
§
「あ……ああ……あッ………」
痛みと共にカオルの神経が研ぎ澄まされ、肌がビリビリと感応する。
「カオルちゃん……あと少し、あと少しだから……」
シンジがカオルの耳元で呟く。熱い吐息が耳たぶをくすぐる。
"かぷッ"
「あ……ふぁ……あふぁ」
そのままシンジは耳たぶを口に含み、その柔らかな肉を、襞を、舌先でなぞる。
カオルの中はまだ狭くぴっちりと閉じられたままだが、シンジの愛撫に更なる潤いを増してきた。
"ぬ……ずる……りゅぷッ"
シンジはカオルの潤いを絡め取りながら、さらに深く挿してきた。
ペニスが濡れた壁を押し広げながらゆっくりと埋まっていく。
「入ったよ……分る?カオルちゃん?」
「は、はい……私の中に、シンジさんのが……あります」
「すごく……気持いいよ。俺のが……包まれてるみたいだ……」
「気持ち……良いですか?」
「ああ……凄く……気持いいよ」
(シンジさん……私で、感じてくれてる……嬉しい……)
恋人の言葉に、痛みよりも喜びを感じてしまうカオル。
「カオルちゃん、もう少し……力抜いて。俺、動くから……」
「は、はい……」
"ぬるぅ〜〜〜、ぬちゅ、くちゅ……"
「!あッ!ダメ……指もなんて……あッ!」
四方の壁をなぞるようにペニスで中をかき混ぜ、
同時に敏感になった蕾を狂おしいような指使いでふわふわと撫で回す。
ゆっくりと繰り返していた抜き差しのスピードを少しずつ上げ、やがて壁をしごくように動き始めた。
「あ……う…… ぐ 」
シーツを両手でぎゅっと握り、快楽と痛みに耐えるカオル。
頭の中が白くなり、熱い吐息が漏れて呻き声が布団にこもる。目の前の布団が霞む。
カオルは必死に瞼を持ち上げる。耳の奥でシンジの吐く荒い息を感じ続けた。
"ぐちゅ……ずしゅッ、ずッ"
(あ……なに?コレ……私……おかしくなっちゃう……あ……)
シンジに猛々しく突かれながら、カオルのからだからさきほどと同じ………
いや、それ以上の悦びがこみ上げてきた。熱く潤ってとろけてくる。
ふたりのつながったところが、淫らな音をたてて匂いを放つ。
(あ……あッ……ああ……私……私……)
「かおる……ちゃん………」
「あ……」
乱れる息の中で、先に果てたのはシンジの方だった。
汗ばんだ肌の起伏をまさぐられ、熱くとろけた場所に最後の衝動が突き抜けた。
"ぷッ……ぴゅッ、るぶッ"
それに応えてカオルが体をうねらす。閃光のような赤い歓喜が、カオルの頭の先まで一直線に走る。
(赤い………花………)
瞼の裏に、真っ赤な花が咲き誇っていた。そんな錯覚をカオルは見た。
"ずる……"
シンジがゆっくりと、カオルに預けていたからだを離し、ペニスを引き抜く。
「シンジさん……」
「……大丈夫?カオルちゃん……」
"ちゅ……"
正面に向き直ったカオルが恥ずかしげにシンジと唇を重ねてきた。
「いる……シンジさん、いてくれる……シンジさん……」
「?って……俺は、ずっとココにいたよ?」
「だって……さっきは、シンジさん、見えなかった……声と重さだけしか私、
分らなかったから……すごく不安だったけど……やっぱりシンジさんがいてくれる……嬉しい……」
"ちゅ"
そう言いながら、もう一度唇を重ねるカオル。
§
(カオルちゃん……)
恋人の可愛らしい姿に胸がいっぱいになったシンジはそのままぎゅっと彼女を抱きしめた。
「えへ………まだ少し恥ずかしいけど、裸で抱き合うって……すごく、素敵ですね、シンジさん」
「ははは……そうだね」
「あの……今日は、このまま一緒に寝てくれますか?」
「いいよ、カオルちゃん?そうだ、手も握ったまま寝ちゃおうか?」
「はい!」
そして次の日の朝―――
「ふぁああ、おはよう、マサヒコく……え?」
「おはようございます……シンジさん……」
シンジが驚くのも無理のないところで、マサヒコの顔は明らかに疲労の色でどす黒く塗り固められていた。
「あ、おはようございますぅ〜〜♪シンジさん♪」
「あ、ああ……!?!おはよう、ミサキちゃん……」
そしてそれと対照的に……ミサキの顔は、ツヤツヤと弾けるようだ。
(そう言えば……昨日も、あれから物音がしてたし……このふたり、いったい何回……)
さすがにそれ以上追及などはできないシンジ。気の毒そうに、マサヒコを見るしかなかった。
「………おはよう、おにいちゃん」
「おはようございます、シンジさん……」
「??ああ、おはよう……カナミ、マナカちゃん……」
隣の部屋から出てきたマナカナコンビまで目の回りにクマをつくり、なぜかお疲れモードである。
(あれ?俺らは一回しただけですぐに寝たし……あ!もしかしてマサヒコ君達の部屋にも、
盗聴器とか仕掛けて一晩中付き合ってたのか?しょうがねーな、コイツら……)
「マナカちゃん、ちょっといいかい?」
「ふぁわ……?なんですか、シンジさん?私、眠いんですけど……」
「昨日はとりあえずありがとう。でも、良くないよ。マサヒコ君達の部屋にもそういうのを仕掛けるのは…」
「………?マサヒコ君達の部屋になんて仕掛けてませんよ?」
「へ?ならなんで……」
「隣の隣の部屋に仕掛けた、って書きましたよね?そこの中年夫婦が激しくて……
SM、幼児プレーetc……と正に昨夜は性の狂宴だったんですよ」
「………そうだったの?にしても、それも……」
「おまけにですね、シンジさん……勃たなかったんですよ」
「へ?」
「いや、最初はその夫婦もノリノリで私たちも面白がって見てたんですが……そのうち、
『あなた!やっぱり……ここまでしてもダメなの?』
『うう……すまない……ミナコ……』
なんて泣きが入ってきて……しかもそれでプレー終わると思いきや、逆に更に激しさを増して……
ふぅ〜〜、全く、昨日は人の性の奥深さというものを教えられましたね」
「はあ…………」
ここまで来ると、なにも言えずに呆れかえってしまうシンジだが、ちょうどそのとき……
「やあ、おはよう……」
「おはようございます……」
その、隣の隣の部屋から……くだんの中年夫婦が出てきた。
「あ、おはようございます!」
「おおおお、おはようございます!」
慌てて挨拶するマナカナだが、シンジはなぜかそのふたりに見覚えがあるような気がしていた。
(奥さんは……まだ30代半ばくらい?で、ダンナさんは70は過ぎてるよな……?)
夫婦だとしたら、随分年の離れた夫婦だな、と思った。
マナカの話からすれば親子ということはないだろうが、不倫の関係というのもありそうだ。
(ま……どっちにしたって俺には関係ねーし、いいか)
「じゃ……カオルちゃん、朝飯行こうか?」
「はい!シンジさん!」
記憶の奥底になぜか引っかかるものは残ったが、とりあえず無視して恋人に声をかけると
シンジは彼女と手をつなぎながら食堂へと向かった。
ふたりの未来を祝うような、爽やかに晴れた朝だった。
END