作品名 作者名 カップリング
「雨 〜Rain〜」 そら氏 -

「お兄ちゃんの馬鹿!もう知らない!」
カナミはシンジに向かってそう叫ぶと飛び出すように家を後にした。
城島家に残されたのはシンジ一人。シンジは気まずそうに頬をかいていた。
「ああもう・・・兄貴の俺が何で妹にムキになってんだよ・・・」
シンジは一人でそう呟くととりあえず学校へ行く支度をしだした。制服に袖を通し教科書を鞄に入れる。
鏡の前である程度身だしなみをチェックする。
「そういや・・・今日雨降るかもってカナミが言ってたな。」
カナミが家を飛び出す少し前、兄を気遣った妹の言葉がシンジの頭に蘇る。
シンジは傘を持つと家に鍵をかけて学校へ向かった。

一方、飛び出すように家を出たカナミはそのまま学校へ向かっていた。走っていたため少し歩いて息を整える。
そして少し冷静になった所で後悔していた。何であんなにイライラしてたんだろう。
何であんな事で怒っちゃったんだろう。お兄ちゃんが・・・買ってくれたのに・・・
カナミがトボトボと歩きながらハァと溜息を吐く。
「おっす、カナミ。どした?何かテンション低くない?」
そうこうしていると、カナミの肩をポンと叩きながら話しかけてくる女性が一人。カナミの友人の矢野アキだ。
「あ・・・おはようアキちゃん。ええっと・・・私マかな?」
「あんたが変なのは何時もの事・・・と言いたいけど今日はベクトルが違うかな。」
アキがカナミに言う。体調が悪いとかそんなのとは違う感じ。それはアキにも見て取れた。
「ん・・・・」
カナミが何か言おうとするが口ごもる。
「んー・・・まぁいいや。学校ついたらでいいよ。そうすればマナカもショーコもいるし話しやすいっしょ?」
アキはそう言ってカナミの頭をクシャクシャと撫でた。カナミはアキによって少し乱れた髪を直しながら小さな声で
「ありがと・・・アキちゃん・・・」
と言った。



「つまり、お兄さんと喧嘩したって事ですか?」
マナカが言う。少し時間は流れて昼休み。学生がかなり長く自由ができる時間だ。
カナミは今朝の話をアキ、マナカ、ショーコと一緒に弁当をつつきながら話していた。
「珍しいね・・・あんたがお兄さんと喧嘩するなんてさ。あの日?」
ショーコが言う。事実、ショーコは城島兄妹が喧嘩したところは見たことがなかった。
それはアキもマナカも見たことがない。いつもベッタリの二人から考えるとそれだけ珍しい事だった。
「ううん、あの日なんかじゃないよ。何でかな・・・自分でもよく分からないんだよ・・・」
カナミが俯きながら言う。喧嘩の発端は実に些細な事だった。朝食の時、シンジがカナミのお気に入りの
マグカップの取っ手に食器をぶつけてしまい、欠けてしまった。ただ、それだけだった。
取っ手が少し欠けただけで使用には何も問題ない。それが発端で多少言い合いになりカナミは家を
飛び出してきたのであった。
「んー・・・何かカナミらしくないね。そんな大切なマグカップだったとか?」
アキが言う。すると、カナミは益々俯きながら言った。
「誕生日にね・・・お兄ちゃんが買ってくれた奴なんだ・・・あはは、私馬鹿だよね。
せっかくお兄ちゃんが私のために買ってくれたのに・・・それを忘れてお兄ちゃんにひどい事言っちゃった・・・」
じわっとカナミの目に涙が浮かんでくる。
「そんなヒドイ事言ったんですか?私には想像できませんけど・・・」
マナカが言う。実際カナミが泣くほど自己嫌悪する罵詈雑言を口にするのは想像できない。
「ぐすっ・・・だって私・・・お兄ちゃんにそんなだから18にもなって童貞なんだよ!って・・・」
「あー、そりゃ傷つくかもね。ウチの彼氏も気持ちよくないって言ったら凹むし。」
「童貞はププーってイメージがありますからね。」
カナミの言葉にショーコとマナカは同意している。
(いやさ、マグカップと童貞って関係なくね?)
とアキは激しくツッコミを入れたかったが、さすがにそれが言い出せる雰囲気ではないので断念した。
「私にはマグカップよりも・・・お兄ちゃんのが何倍も・・・大切なのに・・・ぐす・・・」
ついにカナミはボロボロと泣き出してしまう。そんなカナミをアキが優しく包み込むように抱きしめる。
カナミの体にふくよかなアキの体の感触と温かい体温が伝わってくる。そしてアキの匂いはカナミを落ち着けた。
「大丈夫だよ、カナミ。お兄さんにとってもあんたは大事な妹なんだからさ。」
アキがカナミの髪を撫でながら言う。
「そうですよ。きっとお兄さんは怒ってませんよ。童貞なのは事実ですし。」
マナカもカナミに言葉をかける。何か違うのは気にしないほうがよさそうだ。
「まぁ、喧嘩するほどって奴よね。私も喧嘩の後は燃えるし♪」
きっとショーコも慰めているんだろう。あくまできっと・・・だが。
「うん・・・ありがとう、アキちゃん。マナカちゃん。ショーコちゃん。」
カナミは顔をあげるとそう言ってニッコリと微笑んだ。



「あ・・・すごい雨・・・」
放課後。担任に少し仕事を言い渡されたカナミは若干帰るのが遅くなっていた。
外はすでに大雨。しかし、今日のカナミの手には傘はなかった。
「飛び出してきちゃったもんな・・・ついつお忘れちゃった・・・」
カナミは独り言のように呟く。どうしようか・・・誰かに電話をかけるか、鞄を傘にして走って帰るか。
カナミが昇降口で悩んでいるとボンっと傘が開く音と共にカナミの頭上を傘の影が覆った。
「お前に言われたからな・・・もって来たぞ。傘。」
その声にカナミが振り向く。そこには頭をかきながらカナミに傘をさしているシンジがいた。
「おにい・・・ちゃん・・・?」
「あー、その・・・何だ。一緒に帰らないか・・・その・・・一人だけの大事な妹が風邪ひくと困るし・・・」
どこか恥ずかしそうにシンジは言う。それを聞いたカナミは少し戸惑った表情をした後、パッと明るい顔になる。
「うん!一緒に帰ろう?お兄ちゃん・・・えへへ・・・」
カナミが傘の柄を持つシンジの手をぎゅっと握る。お互いの体温を手から徐々に伝わってくる。
シンジは傘を少し高めに持つとカナミと一緒に帰路へつく。
少し歩いているとカナミの肩が若干濡れている事に気づいた。大き目の傘とは言ってもさすがに二人を
しっかり収めるには物足りないようだ。
「え・・・きゃっ・・・お兄ちゃん・・・?」
するとシンジはカナミの肩を抱き寄せて自分の方に寄せた。密着したお陰かカナミの肩も雨に晒されていない。
「肩濡れてたからな・・・こうすれば濡れないだろ?」
「・・・うん・・・有難う、お兄ちゃん。えへへ・・・あったかいね・・・」
カナミがシンジの胸に頭を寄せる。シンジの鼻をカナミの香りがくすぐる。いつも同じ屋根の下に住んでいる
から嗅ぎ慣れているはずのカナミの香り。しかし、今日は雨のせいかいつもと違った香りがした。
「カナミ・・・朝の御免な。でも、あんな大切にしてくれてるの分かって俺、すっげえ嬉しかった。」
シンジが傘を持っていない方の手でカナミの髪を撫でる。水分を含んでいるもののカナミの髪は驚くほど
サラサラと流れていく。
「また新しいの買ってやるからさ・・・だからー」
「ううん、私こそ御免ね。でもね、私あのマグカップあのまま使うよ。少し補修すれば取っ手で
指も切らないしね。だって・・・あれはお兄ちゃんが私の生まれた記念に買ってくれたたった一つの宝物だもん。」
シンジの言葉を遮ってカナミが言う。その表情はシンジがドキリとするほど可愛らしかった。
「ね、お兄ちゃん。」
カナミに呼ばれてカナミの方を向いた瞬間、シンジの頬に温かく柔らかいモノが触れるのを感じる。
「え・・・お前・・・」
カナミはシンジの頬から唇を離すとぺロッと舌を出して、そして笑顔で言った。
「大好きだよ・・・」
大半の人には鬱陶しいと嫌がられる雨。だが、今日の雨はちょっとした事でできた仲のいい兄妹の溝を
洗い流してくれたようだ。雨がやんだ後、二人の心にはきっと虹が架かっているだろう。

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