作品名 作者名 カップリング
「真夏の贈り物」 トマソン氏 -

(プロローグ)
 ある真夏の午後。
「うー、あちー・・・」
 その日、泊りがけで田舎の叔父の家に遊びに来ていたマサヒコは、アイスを買いに
出かけ、炎天下を歩いていた。
 あたりにセミの声が響きわたっている。
 普段は女子大生や女子中学生に囲まれて騒がしい日々を送っていると、こうした
平穏な時間を大切にしなければ、という気になる。が、ここまで暑くてはたまらない。
 マサヒコは歩調を上げた。

 その時、向うから自転車にのった女の子がゆっくりと走ってきた。
 高校生くらいだろうか。豊かな漆黒のロングヘア。若干きつめだが整った顔立ち。
僅かにツリ目なのが気になるが、十分に美人といっていい。
 そしてすらりと伸びた足と、そのごく上のほうだけを覆い隠すミニスカート。
 ペダルを漕ぐ太腿が上下し、今にもその奥が見えそうだ。
 思わず、そのあたりにマサヒコの視線が行く。その時、マサヒコのささやかな願いが
天に届いたか、わずかにそよ風が吹き、ミニスカートがふわっと持ち上がる。女の子は
無表情のまま、スカートを押さえると、そのまま走り去った。

 マサヒコは何が見えたのか、一瞬判断できなかった。脳裏に焼き付いた映像を、
ゆっくりと反芻する。
 あれは生パンツではない。スパッツでもブルマでも短パンでもない。
「あれは・・・トランクス・・・だよな?」
 しばしマサヒコは思考停止に陥った。だが、理解不能なことを理解しようとしても
無駄だ。やがて正気に戻ったマサヒコは、変わった女の子のことは記憶にしまい込み、
道を急いだ。


 その夜。
 近くの神社の境内で縁日があるというので、マサヒコは遊びにやってきていた。
 叔母と叔父と3人で来たのだが、速攻ではぐれてしまった、いや、叔父と叔母と
一緒に回るのは気恥ずかしかったので、人込みに紛れてマサヒコが2人をまいたと
いうのが正確な表現だろう。
 盛大な縁日だ。マサヒコはゆっくり歩を進める。股間の間から銃を構えて射的に
挑んでいる奴やら、おかしな連中もいたが、事なかれ主義のマサヒコは、賢明にも
気にせずに通過する。
 が、どうやら端まで来たらしい。出店の列も切れ、境内の外れに来た。
 そのとき、「あっ・・・」というかすかな悲鳴と、ドサっという音を聞き、そちらを
見やる。そこには、浴衣姿の女の子が、足首を押さえ座り込んでいた。不自然な形で
座り込んでいるため、裾からのぞく白い脛がまぶしい。
「あ、トランク・・・いやあの、どうかしましたか?」
「転んで足をくじいてしまったのです。・・・どこかでお会いしましたか?」
 昼間、スカートの中を見せてくれた(もっともトランクスで防御を固めていたが)
その女の子は、マサヒコのことは覚えていなかった。いや、あの格好で自転車を漕いで
いれば、自分の下半身に注目する男をいちいち覚えていられる訳がなかった。

 ともあれ、足をくじいた女の子をなんとかしなければ。
 マサヒコは少々迷った。ここは神社の境内の奥まったところで、救急車は入って
こられない。人を呼ぶにも、あたりに他の人影はなし、あったとしても、こんな妙齢の
女の子を他人に任せる気にもならなかった。

「あの、お連れの方はいますか?」
「女友達と4人で連れだって来たのですが、はぐれてしまって」
「うーん、とにかく病院へ運ばなきゃ・・・ちょっと失礼します。」
 マサヒコは意を決して、女の子を姫抱えの体勢で抱き上げる。小柄なマサヒコには
少々荷が重かったが、ここでふらつくのは女の子に失礼だしプライドが許さない。
マサヒコは女の子に悟られぬように腹に気合を入れた。
 弾みでマサヒコの手が女の子の臀部に触れる。
「!!?? あ、いや、あの、その、失礼・・・」
 女の子は無表情のままだ。幸いというべきか、遠くから響いてくる縁日の笛と太鼓の
音に紛れて、女の子の「セクハラ・・・ですか」というつぶやきは、マサヒコの耳には
入らなかった。
 それよりも、臀部に触れた手の感触にマサヒコは戸惑った。
 手に感じられたのは、柔らかい肉の感触ではない。紛れもなく、皮革と金属の手触り。
「・・・???・・・」
 マサヒコの当惑を見て取った女の子は、
「ごめんなさい、私、純潔をささげる人は心に決めているんです。だから
貞操帯でガードしているのです。」
 テイソウタイ?それは一体?マサヒコはまたしても思考停止状態に陥った。
「あの、重いでしょうし、こうしていないで腕がしびれる前にはやく移動してほうが
いいと思います。」
 妙に冷静な女の子の口調に逆らえず、マサヒコは神社の門めがけて歩きだした。
 それにしても丁寧な言葉使いの女の子だ。なんとなくズレてはいるが。
 しかし・・・テイソウタイ?


 幸い、門まで行く必要はなかった。
「あ、いたいた!」
 3人組の女の子が、マサヒコに抱きかかえられた女の子を見つけて近寄ってきた。
どうやら、連れとはこの子達のことらしい。
「マナカ〜、どこ行ってたのよ」
「皆さんとはぐれて歩いていたら、足をくじいてしまって。この方が病院に連れて
いってくださるところだったのです」
「マナカちゃん、そういえばショタコンになるって言ってたね。早速捕まえたわけね」
「ありえねーだろ」
「アキちゃん、そんなミもフタもないこと行っちゃ駄目よ。かわいい健全な少年が
美少女マナカを抱きかかえてドキマギしてるんだから。ねえ?」
 一体なんなんだ、このお姉さんたちは。マサヒコの思考停止はさらに延長された。

「どうもありがとうございました。仲間たちとも合流できたし、後はご心配なさらずに
縁日を楽しんでください。」
 ともあれ、こちらで救急車を呼ぶ必要はなさそうだ。ベンチを見つけてマナカと
呼ばれる女の子をおろしたマサヒコは、ようやく開放された。
「あの、せめてお名前を・・・」
「いやいや名乗るようなことでも・・・」
「・・・それでは、せめてお礼に、これを。」
 と、マナカは小さなバックから文庫本とサインペンを取り出し、表紙の裏に
さらさらとサインをするとマサヒコに手渡す。礼をいうその瞬間ですら、マナカは
感情を表に出さず、無表情に見える。
 笑顔だったらすごくかわいいだろうな・・・マサヒコの心の奥から純粋な感想が
滲み出す。しかしこれは失礼かも、とマサヒコは頭によぎった考えを打ち消した。




「私は、これでも作家なのです。私の著作の生サイン本です。
・・・よかったら受け取ってください。」
「は、あ、いや、気になさらずに。・・・それじゃ、これはありがたく頂きます。」
「ねえ、このお姉さんはショタコンだから、また会ってあげてね。ゴムはこの
お姉さんが持ってるからいつでもOKよ?」」
カナミと呼ばれている色ボケ姉さんが絡んでくる。
「よせって!ありがとう、マナカのことはあとは任せてね」
アキと呼ばれる女の子(4人ともいくらか年上のようだが)は真っ当な常識人のようだ。
しかしその体の、豊かな胸の膨らみは、浴衣を通してすら、マサヒコに強烈な印象を
残した。
「(こりゃ、若田部と比べても格違いだ。これが巨乳という言葉の意味か・・・)」
「神社の境内で捻挫->お姫様抱っこのコンボプレイ・・・今度、試してみようかしら」
もう一人のショーコと呼ばれる女の子は遠くの世界に行ってしまっている。

 再びマナカが口を開いた。
「あの、やっぱりせめてお名前を・・・」
「いえいえ気になさらずに。それじゃ・・・」
 マサヒコは逃げるようにその場を離れた。
 なにしろ強烈な個性を持つお姉さんたちだ。これ以上おもちゃにされる前に逃げた
マサヒコは賢明だったといえよう。

 ようやく1人に戻れたマサヒコは別のベンチを見つけて腰を下ろし、安堵の息をつき
さっきもらった文庫本を見た。表紙に書かれた題名は、
「女子大生家庭教師・アイコ19歳」
 ・・・マサヒコはまたしても思考停止に陥った。



「これは・・・エロ小説・・・だよな?」
 自分とさほど年も違わないと思われるさっきの女の子がこれの作者・・・?
 試しにページを開いてみる。
「大久保マサヒコは中学2年生。思春期真っ盛りの彼だが、それまでは真面目な
生徒だった。隣に座る、親が付けてくれた19歳の美人家庭教師・宿田アイコの
むせ返るような女の香りがマサヒコの鼻腔をくすぐり、理性を破壊するまでは・・・」

「なんじゃ、こりゃ・・・マサヒコとアイコ?」
 マサヒコは5ページほどページを繰った。

「マサヒコはアイコの体の自由を奪うと、一枚また一枚、ゆっくりと服を
剥ぎ取っていった。夢にまで見た女の体が、次第にあらわになっていく。
「ま、マサヒコ君・・・駄目、やめて・・・」」
何をされるかをようやく理解したアイコのつぶらな瞳は、おびえと羞恥を宿して
濡れて光っている。のみならず、かすかな期待をもたたえているようにマサヒコに
見えたのは、欲望のバイアスがかかったせいだろうか?
「アイ先生・・・ごめん、俺もう止まらない・・・
 でも、俺のいうこと、何でも聞いてくれるっていったよね・・・」
アイコは覚悟せざるを得なかった。
「(ああ、ついに男の人に、しかも、こともあろうに中学生に、私の貞操は
奪われてしまうのね・・・。)」
しかし、羞恥はいっこうに収まらない。肌を初めて男の目にさらすアイコは、
恥ずかしさに身悶えした。
「マサヒコ君・・・恥ずかしい、見ないで・・・」
その初々しい反応が、マサヒコの獣欲を強烈に刺激した。
「アイ先生・・・」
少年の青い情欲が、掌に、指に、唇に、舌に込められ、はじめは遠慮がちに女の体を
まさぐり始めた。愛撫の標的がゆっくりと下へ、そしてだんだんと大胆になり、次々と
性感帯をまさぐりアイコの体を蹂躪していくと、アイコは全身を羞恥に染めながらも、
初々しくも激しい反応を・・・」


 はじめはなんだかなあ、と思っていた小久保マサヒコだが、そこは彼も若い男、
次第に引きずり込まれていった。
 しかし、いくらなんでも神社の境内ではバチあたりだ。
 急いで叔父の家に戻ったマサヒコは、あてがわれた部屋にこもって文庫本を
開いた。写真でも絵でもなく、文字で書かれているのだから、書かれた情景を脳裏に
思い描くのは自分の想像力のなせる業だ。しかも文中で「マサヒコ」「アイ先生」と
描写されているのだから、小久保マサヒコの脳内で、自分を作中の大久保マサヒコに
投影し、濱中アイを家庭教師・宿田アイコの役にあてはめて出演?させるのは、
まったく無理からぬところだった。

 マサヒコは文庫本をその夜のうちに読破した。つまり、濱中アイの体を欲望のままに
何度も犯す喜びを、あられもない写真をほしいままに撮る情景を、ピンク色の唇を
おのれの肉棒で穢す興奮を、女らしい縮れた恥毛を丁寧に剃り落とす楽しみを、
そしてアイの菊座をも犯す快感を、たっぷりと時間をかけてマサヒコが脳裏に描いた
ことになる。
 マサヒコは本を閉じた。ごみ箱の中のティッシュの固まりは4つにもなっていた。

 翌日、寝不足の赤い目をこすり親戚の家から自宅に帰ってきたマサヒコは、その日の
午後、濱中アイを迎えてはたと困った。アイの姿を見ただけでビクンと反応した分身は、
アイの声を聞き、アイのほのかな体臭を嗅ぐ時間と共に、いきり立つ一方なのだ。
 自然、アイの視線がマサヒコのズボンの前の隆起に引き寄せられる。
「マ、マサヒコ君・・・それ、一体・・・」
「いや、あの、これはその、えーと、そう、ファールカップです。ほら、サッカーで
急所を保護するための・・・気にしないで下さい」
「え、あ、そうなんだ・・・でも、さっきまでは・・・いや、あの、やっぱり気になる
から、外してくれる?」
「あの、いやその、えーと、じゃあ、外してきます。」
 シャワーで水をかけてなんとか分身を静めたマサヒコは、アイの待つ部屋に戻った。
が、アイの姿が目に入ったとたん、またしてもビクンとなる。
「(困った・・・おそるべし、官能小説)」

 アイはマサヒコを更衣室に追いやると、こっそりもう一度部屋を漁った。
本棚の大きな本を置かれた一角。本棚の裏に、本棚の下の隙間。ベッドの下。
マットレスの中。机の引き出し。クローゼットの中。
「相変わらず、どこにもないわね、エロ本・・・。
どうして、今日に限ってあんなに元気なのかしら?まさか、私に興奮して・・・?
まさか、そうじゃないよね、いままでだってずっと一緒の部屋で勉強してたんだから。
でも、あの調子ならEDの心配はなさそうね。お母さんに報告しなきゃ・・・」
 今度ばかりは、アイが天然であることがマサヒコには幸運だった。

 かくして、マサヒコはエロ本を飛び越え、官能小説を愛用するようになった。
 マサヒコの部屋の本棚の一角に、文庫本がまとめて置かれた個所がある。「三国志」
「我輩は猫である」「破戒」などの文学もの、「サッカーのテクニック」などの当たり
障りのない本、それと多少の漫画もある。
 その中に、目立たぬよう、カバーがかかった文庫本が収まっている。それは・・・。


(エピローグ)
 一方の、マナカをはじめお騒がせ4人娘は、マナカの捻挫もあって縁日を歩くのは
早めに切り上げ、城島家に押しかけた。
 マナカはカナミとショタコンの本質について熱い議論を交わし、
 どう見ても中学生の男子に、官能小説を渡したと知ったアキに突っ込まれまくり、
 年下の男の子を夢中にさせるプレイについて、ショーコと意見を出し合った末、
自分の世界に入っていった。
「怪我をしたふりをして年下の男の子に姫抱えを強要しベッドに運んでもらう・・・
そのまま、筆おろしに始まって蟻地獄のように官能の世界へいざない・・・、
これ、次の小説に使えるかも・・・」
 普段めったに屈託のない笑顔を見せないマナカだが、新しいネタを思い付いたとき
だけは天使のような笑顔を宿す。
 それを見たアキは、
「その笑顔、男に見せてやれよ・・・大体あんたは、官能小説に時間かけすぎなのよ。」
アキは力説するが、トリップ中のマナカの耳には入らない。
「その時間を少し削って、もう少し胸を大きくする努力するとか、表情を豊かにする
とか、そうでなくても、いい男見つけたら、たまには一気に・・・」
 そのとき、絶妙のタイミングでマナカがトリップから帰還する。
「そういえば、処女膜を破るときも、トロトロ挿れないで一気に突っ込んだほうが」
「処女が何を言う」
 相変わらずの夜はふけていった。

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