作品名 |
作者名 |
カップリング |
「早すぎた好奇心」 |
トマソン氏 |
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「キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン……」
終業のチャイムが鳴る。雨が降りしきる中、制服に身を包んだ中学生たちが傘を差し、
三々五々家路につき、姿を消してゆく。
そんな中、校舎の出口に立ち止まった少年が一人、恨めしげに空を見上げた。
「ちぇっ雨か。傘持ってこなかったよ」
この季節、傘を持っていなかったのは自分の落ち度だ。もう一度恨めしげに空を
見上げるが、それで雨がやむわけでもない。
そのとき、後ろから女の子の声がした。
「伊藤〜よかったら一緒に入ってく? 家、同じ方向だよね」
少年の心臓は跳ね上がった。この声は……。
声の主は関川エーコ。ひそかに伊藤君が思いを寄せる、同じクラスの女の子だ。
「え!? い、いやでも、二人で差したら、濡れちまうだろ?、傘小さいし……」
「おいおいそりゃ、エロ本の見すぎだよ」
エーコは左手をひらひらと振って、突っ込みを入れる。屈託のない笑顔が可愛らしい。
「……え?」
が、純真な伊藤君には、意味がわからなかった。とりあえず流されるままに、
エーコの隣に位置を占め、雨の中へ歩き出す。
「ところで、伊藤のカサって、小さいの? 見せてくれる?」
さすが関川エーコ、耳年増、エロく、明るく、好奇心ありすぎの四拍子。
「いや、俺が言ってるのはお前の傘のことで……つうか、俺は傘がないからこうして
お前に入れてもらって……」
伊藤君はいまだに意味が分かっていない。
「じゃ、ここに入ろ?」
エーコは伊藤君の返答は無視し、公園のトイレへ入っていった。掃除したばかりと
おぼしき綺麗なトイレには、ほかには誰もいない。
障害者用の広い個室に先に伊藤君を入れ、続いて自分も入ってカチリと鍵を閉めると、
エーコは得意の上目使いと悪戯っぽい笑顔を全開にして、個室のほぼ中央に立ち尽くす
伊藤君ににじり寄った。
「お、おい関川、いったい何を……」
「じゃ、見せてね? あたしも、パパとシンジ兄ちゃん以外のは初めて……」
「え゛?!」
こんなところで何をするのか、戸惑いを隠せなかった伊藤君、エーコがそのズボンの
前にかがみ、ファスナーに手をかけた瞬間に、たまらず石化した。
エーコは、下ろしたファスナーの間にそっと指を入れて、ブリーフの割れ目から、
おずおずとアレを引き出す。
「こんにちわ……って、あれ? カサ、皮の中で、見えないじゃん……」
中学一年なら、別にごく普通のことであるが、関川エーコの偏った知識の範疇には
ないらしい。まあ、知識の源がシンジからパクったエロ本ではやむを得ないか。
女の子の指がそっと皮をむこうとしたその瞬間、伊藤君は石化が解け、今度は
パニックが彼を支配した。
「ぬ、ぬうわを〜〜〜?!」
ものすごい勢いでエーコを押しのけ、鍵と戸を叩きつけるように開けると、降り
しきる雨をものともせず、全力ダッシュで少年は逃げてゆく。ズボンの前からアレが
のぞいたままだったが、走っているうちに収まった。めでたしめでたし。
「ちぇっ」
エーコは一人個室に残され、口を尖らせた。
「……意気地なし」
……エーコ。そんな言葉ドコで覚えたんだ?
……そして伊藤君。いずれ惜しいことをしたと思うときが来るだろうが、
今は、びしょぬれの君に乾杯。